病気の療養で退屈をかこっていた陸軍大尉にして、英国で影響力を持つロスガー侯爵の末の弟シンリック・マローレンは、ある日、かわいらしい強盗に襲われた。慣れない様子のその強盗は、よく見ればどこぞの令嬢が男装しているようだ。過保護な兄侯爵に止められて軍務復帰もなかなか定まらないまま退屈を囲っていたシンリックは、興味をひかれるままに、その強盗に手助けを申し出る。彼女が女性であることには気づかないふりをして……。
強盗の正体は、現国王ジョージ三世に親しく、清廉潔白の士として知られるワルグレーヴ伯爵の娘チェスティティ・ウェアだった。彼女は、父親に無理やり嫁がされた姉が逃げてきたところを助ける途中だった。姉は結婚相手の死によって、生後2カ月の乳飲み子を抱えたまま未亡人となり、親権を亡夫の弟ヘンリーに取られたことで、子供の安全に不安を感じ、結婚前に将来を誓い合っていた相手の元へ向かおうとしていた。ワルグレーヴ伯爵は、なぜか姉妹を姉の亡夫の一族と結婚させたがっており、チェスティティもつい先日、ベッドにヘンリーを送り込まれ、拒絶したところ、ワルグレーヴ伯爵をはじめ世間から「ふしだらな娘」の烙印を押され、見せしめに美しいブロンドの髪をそられて、金も与えられず別荘に蟄居させられていたのだ。
だが、姉を助けようにも、生活にすら困窮する始末。チェスティティは髪を切られたことを逆手にとって少年強盗に扮したところに現われたのが、シンリックだったのだ。チェスティティの名前は、悪女の代名詞として、いまやロンドン社交界に知れ渡っている。真実を言ってシンリックが協力してくれる可能性は薄く、身の安全のためにも男でいたほうがいい。そう判断したチェスティティは、「チャールズ」と名乗り、シンリックの協力の申し出を受け、姉をなんとか好きな相手と結婚させるために、姉の相手の待つ土地へ旅立つことを決意する。
シンリックははじめ、たいくつしのぎのためだけにこの男装の乙女を助けることにしたのだが、次第に、大胆不敵で芯の強い、そしてきっと女装したら誰よりも美しいであろう「チャールズ」に惹かれていく。母親の美貌を受け継いだ彼は、美しい赤い長髪に緑の瞳で、一見なよやかにも見えたが、軍で培った剣技や交渉術で、坊っちゃんらしからぬたくましさをみせ、チェスティティを魅了していく。だが、彼女は「悪名高きチェスティティ」。正体を明かし、恋をささやけば、相手に迷惑がかかってしまう。名誉を回復するまでは恋は無用と、チェスティティは恋心をひた隠し、シンリックのほうでも、「チャールズ」の正体に気づき、本当は自分は遊ばれているのではという疑念に苛まれながらも、惹かれる気持ちを止められずにいる。
だが日に日に父親の追手は勢いを増し、敵の目をごまかすために参加した仮装パーティで、シンリックに隠れて女装したチェスティティは、仮面のままシンリックを一夜をともにすることに……。仮面の下に秘めた心を二人は打ち明けることができるのか? そして、父親との対決は……?
逃亡中に、シンリックが貴婦人に女装して、男装のチェスティティをかしずかせるなどという場面もあり、男女逆転劇の面白さがまず第一のポイント。さらに仮装パーティでは、有力貴族たちの秘密が次々と暴かれ、波乱万丈の宮廷陰謀劇の様相を呈します。実在の人物である国王母オーガスタ妃やその愛人と噂されたビュート卿なども登場し、歴史ものとしての楽しさも十分!
またチェスティティの父親と対決するために、シンリックはあまりの過保護さに反目していた兄侯爵を頼りますが、この兄侯爵ロスガーをはじめとする、シンリックの兄弟姉妹たちがとてもとても魅力的。とくに、ロスガー(もちろん超美形!)が、後半主役といっても過言ではない働きを見せ、愛する家族のために陰謀を暴き、悪名高きチェスティティの名誉回復に奮闘し、弟の結婚を実現しようとするのです。お兄ちゃんかっこいい!! 敵には容赦なく冷酷非情なところもいいんですね。きっとこれはスピンオフでシリーズ化する気だよと思っていたら、そのとおり。マローレン一族の物語は、ロスガーの弟でシンリックの兄の物語や、シンリックの双子の姉の物語など、次々に描かれているようです。早くロスガーの話が読みたいのですが、これはオオトリかもしれないですね。とにかく先が楽しみ。
著者のジョー・ヘヴァリーは、これまで5度のRITA賞に輝いているロマンス界のツワモノですが、本作もRITA賞受賞作。エンターテイメント性に溢れたストーリーはその実力をうかがうのに充分です。☆☆☆☆☆
男女逆転劇度☆☆☆☆
宮廷陰謀劇度☆☆☆☆
とてもおすすめ | ☆☆☆☆☆ |
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おすすめ | ☆☆☆☆ |
まあまあ | ☆☆☆ |
あまりおすすめできない | ☆☆ |
これは困った | ☆ |