森美術館で1月15日まで開催されていた「メタボリズムの未来都市展」は、夜遅くまで熱気にあふれていた。メタボリズム(新陳代謝)とは、1960年代、荒廃した戦後日本の復興のシンボルとして提唱された建築運動のこと。若い建築家グループが、人口の増加や社会変化に合わせて有機的に成長する国家規模の都市計画を次々と実現し、日本の現代建築を世界にアピールしたのだ。空や海まで活用した奇抜なアイディアとその勢いに圧倒された。
世界初の交換可能なカプセル建築として知られる銀座の「中銀カプセルタワービル」(黒川紀章)はその象徴だが、文字通り新陳代謝を繰り返す形で存続している代官山の「ヒルサイドテラス」(槇文彦)のような例もある。渋谷・新宿・丸の内に計画された「空中都市」(磯崎新)は、実現しなかったにも関わらず世の中の価値観を揺さぶったラディカルな建築だ。
今年、大手ゼネコンは東北地方に人材と技術を重点投入し、3年間で17兆円規模の復興需要が生まれる見通しという。再び日本の建築を世界にアピールするチャンスが生まれたのだ。どんな新しいものが生まれるのか楽しみだけど、高度成長期やバブルを彷彿とさせるマッチョな建築ではなく、繊細で美しいものであるといいなと思う。
『最高に美しい住宅をつくる方法』の著者は、1980年代後半、磯崎新アトリエに在籍していた建築家の彦根明。最高に美しい住宅とは、限りなくアート作品に近いものなのか? 磯崎新のラディカリズムを継承したものなのか? そんな興味からひもといてみたけれど、本のデザイン自体が美しく、釘付けになった。心地よい分厚さ、文章量を抑え余白を多くとったレイアウト、そして、抜けのある写真。施工例をもとに、細部のアイディアをひとつひとつ種明かししていく構成には、絵本を読むような楽しさがある。
「閉じることで開く」「高さ5mのドア」「家のなかの路地」「居間に森を取り込む」「テラスまで突き抜けるキッチンカウンター」「地下室に自然の光を落とす」「モンドリアンの絵のようなアルミサッシ」「空に開く」「成長する庭」「『穴だけ』の照明」など、各ページの見出しを読むだけで、既成概念を崩すあまのじゃくさに心をつかまれた。
建築家の仕事とは、施主の夢と職人の技を結ぶコーディネーターのようなものなのだとわかる。既製品で満足できなければ工務店や製作会社にお願いしてつくってもらう。立地上の制約や施主のわがままは高いハードルだ。無難に解決すれば、普通の住宅ができるのだろうけど、制約やわがままこそがオリジナルへの道と考えれば、ネガがポジへと鮮やかに反転し、最高に美しい住宅が生まれるのかもしれない。
仕事の面白さが伝わってくる本だ。著者の得意技は、環境に配慮しながらシンプルに広くみせるマジック。屋根裏と階段には特別な思い入れがあるらしい。
「屋根裏部屋というものは、何故か使う人をワクワクさせる」「階段は『楽しい場所』、『好きな場所』になって欲しいと思っている。建物の中の上下の移動はストレスになりやすい場所だから、そこを楽しんだり好きになってもらうことができれば、家全体のイメージアップにつながるはず」と本文に書かれている。デザインへのこだわりは、心や体の問題を解決したり、夢を叶えることにつながる大切な要素なのだ。
この本は、最高に美しい作品集でありながら、権威的な匂いがしない。メタボリズムでもラディカリズムでもなく、私的に静かに現実的に、未来の建築のために開かれたソーシャルなテキストなのだと思う。