身長177cm・体重70kgの持病もない健康な身体のおかげで、私は日々何事もなく過ごしている。平均的な日本人より恵まれていると言っていいこの身体を授かった理由を考えると、一番妥当な理由は「男に生まれたから」ということになる。平均身長・体重を考えても、男性は女性より体格的に恵まれた身体に生まれやすい。この男性の体格的な優位性は、そのまま「戦う」ということに関する優位性であるとも言える。重い武器を携行でき、白兵戦でも力に勝る。そして、身体的にも安定している。
上記の理由から、戦時において男性が兵士となることは男女差別ではない。さらに言えば、消耗品である男性に比べ、女性は子供を産み育てることのできる生産者である以上、戦闘から遠ざけられるのは理屈の上でも間違っていない。また、男性より戦闘能力に優れた女性が戦うことになっても、それは女性であることが理由にはならない。リュドミラ・パヴリチェンコは優れた狙撃手だっただけで、彼女が男性だったとしても戦場はその優れた能力を必要としたはずだ。
昨今、戦う女性キャラが登場する物語は少なくない。だが、肉体的に女性であることに説得力を持たせるにはどうすればいいのか? その問いに対して、ひとつの明確な答えを出したのが、今回紹介する白井弓子の『WOMBS』である。
人類が植民した碧王星と呼ばれる惑星は、一次移民者である「ファースト」と二次移民者である「セカンド」の間で戦争が行われていた。セカンドは物量・技術力共にファーストより優れている。そんな中、ファーストが戦局の命運を託したのが、女性だけで組織された特別転送隊だった。碧王星の原生生物であるニーバスは妊娠中のみ空間を移動することが可能となるのだが、その空間移動能力だけを利用するために、ニーバスの体組織を子宮に移植し、擬似的な妊娠状態になることで転送能力を得た女性のみで構成されるのが特別転送隊なのだ。そこに配属されたマナ・オーガは部隊の中でも特別な才能を見出され、戦争に参加していく。故郷を守りたい、そんな純粋な願いから入隊したマナは自らの故郷守り、戦争に勝利することができるのだろうか……。
本作は子宮を持つ女性しか参加できない部隊の活躍を扱った物語である。同時に、上記のような「戦う女性」という設定にこれ以上ない形で説得力を与える物語でもある。従来の戦場の主役である男性が脇に追いやられ、女性が自らの意思で自分の性でしか成し得ない戦いに身を投じるのだ。
『WOMBS』は現状で3巻が発売されたばかりで、4巻の発売予定は2013年春となっている。追いつくなら今しかない。SFという枠での魅力だけでなく、女性が戦うことを真摯に描いてもいる作品なので、男女どちらでも楽しめるし考えさせられる作品になっている。この新しい「戦う女性の物語」を今のうちに読むことをオススメしたい。
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