サンフランシスコで中世建築の修繕とインテリアデザインをするバリバリのキャリアウーマン・ジュヌヴィエーヴには、幼いころから密かな夢があった。ドラゴンを倒す中世の騎士とともに古城に住むのだ。もちろんそれが夢想にすぎないことはわかっていた……はずだった。
だが、予想もしなかった不幸と幸運が彼女を襲う。
理由のわからないまま、仕事相手が次々にキャンセルをし、部下たちも離れて、たった一人、文無しになってしまったのだ。頼れる親兄弟はいなかった。そんな彼女に信じられないような申し出がイギリスの弁護士からもたらされる。ロンドン郊外にある中世の古城・シーカーク城の、ジュヌヴィエーヴは正当なただ一人、生き残った後継者であり、その城を相続して実際に住めば、一生で使いきれないほどの財産もともに受け継げるというのだ。追い詰められた彼女はすべてを捨てて、イギリスに渡った。
果たして、そこで彼女を待っていたのは、彼女が夢にまでみた中世の古城と、しかつめらしい執事。そして……見たこともないほどハンサムな、そしてジュヌヴィエーヴの一族に復讐を誓う、中世の騎士ケンドリックの幽霊だった。
それは1260年のこと。十字軍の報奨として、シーカーク城を与えられたケンドリックは、婚約者マチルダとその愛人リチャードの卑怯な策略によって殺され、さらに城から出られないという呪いを掛けられて、以来、マチルダの子々孫々に復讐を誓い、城からの解放を願い続けてきたのだ。城から解放されるためには、マチルダの子孫、つまりジュヌヴィエーヴに城の相続を放棄させ、ケンドリックに権利を譲渡するという書類にサインをさせる必要がある。そのためにケンドリックは、執事を使ってジュヌヴィエーヴの仕事相手に偽りの電話をして彼女から仕事を取り上げ、いったん彼女に城を相続させたあと、幽霊として死ぬほど怖がらせて、城を譲渡させようと目論んだのだ。
計画通り彼女は移住してきたが、誤算があった。これまでのどのマチルダの子孫にもなかったほどジュヌヴィエーヴは勇気があり、そして優しさがあった。美しい黒髪をなびかせて彼に立ち向かい、彼を思いやる彼女を、なんと、ケンドリックは愛してしまったのだ。そして、それはジュヌヴィエーヴも同じことだった。
思いあっても、幽霊と人間では決して触れあうことはかなわない。愛を感じるほど、その事実に追い詰められていく二人は、さながら「ゴースト/ニューヨークの幻」のよう。愛し合う二人に奇跡は訪れるのか。だが、さらに彼らを脅かす、恐ろしい影が……
いまどき、いくら夢見がちな女性だって、白馬に乗った王子様がこないことくらい、わかっているはず……なのに、それが思いがけず実現してしまったら、しかも相手は幽霊なんですけど!! という、もしもをダブル実現させた、これはもう設定だけでも勝ちだよね、という、コンテンポラリとヒストリカルとサスペンスとパラノーマルの要素がミキシングされた、無敵のロマンス。
完璧な執事ワージントンや、ケンドリックの呪われ仲間である幽霊の騎士たち、馬の幽霊などもいて、お城は非常ににぎやかで、飽きがきません。
本作は著者リン・カーランドのデビュー作(邦訳はすでに3作出ています)にして、RITA賞受賞作です。カーランドは、中世を舞台にしたヒストリカル・ロマンスや、ケンドリックの一族や姉妹を主人公にした、タイムトラベル・ロマンスなども書いています。タイムトラベルものといえば、カレン・マリー・モニングのハイランダー・シリーズやダイアナ・ガバルドンのアウトランダー・シリーズもお薦め。どうせ夢みる小説を読むなら、これくらい壮大にやってくれたほうが突き抜けていていいわーと思います。☆☆☆☆☆
中世のお城芸術度☆☆☆☆☆
執事満足度☆☆☆☆
とてもおすすめ | ☆☆☆☆☆ |
---|---|
おすすめ | ☆☆☆☆ |
まあまあ | ☆☆☆ |
あまりおすすめできない | ☆☆ |
これは困った | ☆ |