次に紹介する門井慶喜『おさがしの本は』は、図書館員を主人公にした連作短篇集だ。図書館員歴七年になる和久井隆彦の持ち場は、レファレンス・カウンターである。ネット検索などではわからない、曖昧な記憶を元にした本捜しの相談を受けるのが彼の仕事。「シンリン太郎について調べたいんですけど」という大学生がやってくれば、森鴎外の著書目録をそっと差し出してやるわけである(森林太郎は、鴎外の本名ですね)。
図書館を主舞台にしたビブリオ・ミステリーには、たとえば森谷明子『れんげ野原のまんなかで』(東京創元社)があるが、本捜しの関心に話を絞ったところが本書の魅力だ。たとえば「赤い富士山」には、赤い富士山を表紙にした本を捜している紳士が登場するのだが、誰もが思うはずの葛飾北斎「凱風快晴」は正解ではないのである。絵ではなくて、山肌が赤く染まった富士の写真が表紙だったという。そんな馬鹿な、と投げ出さずに、隆彦はちゃんと調べていくのですね。その丹念な調査の先に、思いがけない答えが待っている。直観の冴えを前面に押し出すのではなく、コツコツと推論を積み上げていくタイプの物語だ。一見地味だが、常識を積み上げた先に予想外の答えが待っているという展開は、知的な驚きに満ちていて好ましい。
連作の後半には、自治体の財源確保のために図書館廃止を目論む一派が出てくる。存続派の隆彦は彼らに対抗できるのか、という関心もあり、なかなかに読ませるのである。謎解きのおもしろさでは「図書館滅ぶべし」が一番。論理展開はさほどでもないが、導かれた解答が思わず噴出してしまうほどに愛らしいものなのである。なるほどね。こういう作品は好きなので、☆☆☆☆を進呈します。
とてもおすすめ | ☆☆☆☆☆ |
---|---|
おすすめ | ☆☆☆☆ |
まあまあ | ☆☆☆ |
あまりおすすめできない | ☆☆ |
これは困った | ☆ |