本を手に取ったとき、「ここまで帯でネタばらしをする本も珍しいわ」と感心した。
北國浩二『リバース』のことである。だって帯には「『イニシエーション・ラブ』乾くるみさん推薦の逆転劇!」とあるんだもの。乾くるみには『リピート』(ともに文春文庫)という著書もあるわけで、〈リピート〉と〈リバース〉だからね。上記の乾作品を読んだ人なら、間違いなく予断を抱いてこの作品に当たることになるだろう。編集者はそこまで計算しているのか。しているんだろうなあ。
というのも乾の推薦文は「主人公の男は負け犬かつ忠犬。その歪んだ愛が物語を加速させる。もちろん大好きです、こういう話。完璧です」とあって、物語のプロット自体には一つも触れていないからである。ここで言及されているように、本書の主人公・柏原省吾は「負け犬」かつ「忠犬」という可哀相な立場に追いやられる。彼はアルバイトをしながら将来のメジャー・デビューを夢見ているバンドマンだ。恋人の上野美月はモデルと見紛うような容姿の持ち主で、トップモデル・姫宮友里のファッションを模した〈ヒメちゃんスタイル〉がよく似合う。これは不釣合いじゃないか、危ないんじゃないか、と思っていると案の定、省吾は横から出てきた男に彼女を奪われてしまうのである。ライバルはエリート医師の篠塚だ。失意のどん底に突き落とされた省吾は、あることがきっかけで篠塚に対して疑念を抱くようになる。篠塚の正体は殺人鬼で、標的として美月を狙っているのではないか。元恋人を救うため、省吾は篠塚の尾行を開始する。未練がましい駄目男と蔑まれ、ストーカー扱いされても彼の信念は少しも損なわれることはなかった。美月を救うという至高の目的の前には、すべての手段は正当化されてしかるべきなのだ。
どうでしょう、これ。篠塚を犯人扱いする根拠が薄弱すぎないかとか、調査の手段が杜撰すぎないかとか、いろいろ言いたくなるような行動を省吾は取るのだが、いいのである、根拠薄弱でも杜撰でも。だって信じているのだから。信じているから篠塚が犯人なのだ悪い奴なのだ。そういう妄念の小説として読むと、とてもおもしろい。男の未練を描いた、イタタ小説です。
残念なのは、後半に入ってから急に省吾が賢くなってしまうことだ。他人から「頭の切れる男」と褒められるほどになるのだが、それはないでしょう。ストーカー転じて名探偵? ここまで周囲に迷惑をかけた人間が簡単に救済されるというのは、物語作法としておかしい。「いい話」に回収された途端、魅力は半減したと私は思いました。前半の魅力だけなら☆☆☆。通読した印象は☆☆である。あ、帯のネタばらし問題については、心配するほどのこともありませんでした。題名は『リバース』でなくてもよかった気がする。
とてもおすすめ | ☆☆☆☆☆ |
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おすすめ | ☆☆☆☆ |
まあまあ | ☆☆☆ |
あまりおすすめできない | ☆☆ |
これは困った | ☆ |