上司命令で休日にオフィスで勢揃いした社員たちが、上司に「ビルを封鎖した」「この会社は消滅する」「機密を守るため君たちを全員殺し、その後自分も死ぬ」と告げられる。この後、そのオフィスを舞台に大変なサバイバル・ゲームが始まるわけだが、未読者の興を殺ぐのでこれ以上は具体的に紹介できず、詳細に論じるのは難しい。
ただし、これだけは強く言っておきたい。本書の新機軸は、バトルロワイアルを「オフィスでやった」というただ一点に尽きる。これを除くと、同種の作品は特に国内で大量に見つけることができる。それら類例と比較した場合、『解雇手当』はキャラクター造形やテーマ性が弱い。倫理上の問いかけは皆無で、キャラクターは全員非常に薄っぺらで、言動の全てがとにかく底が浅い。当然、感情移入など全くできないわけである。「この人物は実は凄腕の○○だった」といった類の設定も、はっきり言って非常に安直である。話のテンポは良いので、有能な監督(タランティーノとか)や脚本家によって映画化されたら、もしかすると非常にポップに仕上がるかも知れない。しかし小説としては箸にも棒にもかからず、サバイバルや陰謀に関するとても安易なアイデアが、工夫なしに並べられているだけとしか見えない。
バカミス好きに高く評価された前作『メアリー-ケイト』(早川書房/ハヤカワ・ミステリ文庫)は、史上かつてない「登場人物がずっと誰かと一緒にいる理由」が提示された作品で、その理由を最大限有効利用した緊迫感満点のシチュエーション・コメディとして読めた。ゆえに『解雇手当』にも期待したのだが、結果は実に残念なものであった。
以上のように思っている作品を、「あまりおすすめできない」程度で済ましても仕方がないので、腹を括って評価は☆。
ただし川出正樹氏の見解は全く異なる。このように評価が極端に割れる作品は、自分で確かめてみなければ本当のところはわからない。というわけで、興味を持った向きは、実際に読むが吉。
とてもおすすめ | ☆☆☆☆☆ |
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おすすめ | ☆☆☆☆ |
まあまあ | ☆☆☆ |
あまりおすすめできない | ☆☆ |
これは困った | ☆ |