書評の楽しみを考える Book Japan

 
 
 
トップページ > おすすめ本書評一覧 > 最後の遣唐使

最後の遣唐使

なかなか唐にたどりつかなかった、遣唐使。
国家事業を漂流譚として読む。

佐伯有清
講談社講談社学術文庫歴史] 国内
2007.11  版型:文庫
>>書籍情報のページへ
レビュワー/小玉節郎

「遣唐使について何を知ってるんだっけ?」と自問してみて、ほとんどまとまりのあることを知らないとわかった。それが去年のことで、その時偶然書店で『遣唐使全航海』(上田雄著・草思社刊、2006年12月4日初版刊行)という本を見つけたので、読んだ。この本は非常に興味深い本だった(この本もお奨めの一冊)。
とても内容のいい本だけれど、地味だし「今どき遣唐使に興味を持つ人なんかいるのか? こういう本は一体誰が買うんだろう?」と思った。一瞬の後、あ、オレが買うんだと心の中で笑ってしまった。

先に書いてしまうと、遣唐使は「日本の古代の漂流譚として読む」と、歴史的意味とは別にかなり面白い。多くの日本人が死んでいるので、面白いは失礼かも知れないが。

日本と中国とのつきあいの中、遣隋使に始まった外交関係で歴史にその名をとどめている遣唐使というのはどんなものだったか、知識をまとめておくのもいいなという気になって、先の本を買って読み始めてびっくりした。
国家事業のはずの外交事業「遣唐使」の実態が正確にわかっていないところがあるというのだ。
普通に言うと「そりゃないだろ!」である。
古いことだとはいっても、国家事業だったんだからしっかりした公式の記録があるだろう、と私は思ったが、そうではないようで、正確に遣唐使が何回大陸まで行ったのかはっきりしないそうだし、計画だけはあったが実際は行っていない「派遣」もあったという。遣唐使を研究している学者の間でも派遣の回数が確定していないというのだから、うーむであった。1000年以上も前のこととなると、そんなものか。
コレダカラ歴史ハ面白イ、のだ。

日本の歴史について、私は「いつ日本が日本になったのか」という遙かな古代と、あとは家康が幕府を開いてから大政奉還するまでの江戸時代以外には、ほとんど手をつけないできた(生意気な言い方)。
基本的にはどの時代を切り取って読んでも、調べても、素人なりに研究しても「私たちの国の歴史」が面白くないわけがない、と思っている。だから、手をつけたら深みにはまるのは目に見えているので、素人として研究するのは、古代と江戸時代ぐらいにしておかないと手に負えないと考えている。それでも、古代については人前で話したら1時間ももたない程度にしか知識がないと思う。昔大いに盛り上がった「邪馬台国論争」なんかに加わりたくて勉強したがすっかり忘れてしまった。といって、江戸時代についても、少しは知っているという程度なのだが。

歴史が年表のページに整理された「動きを止めてしまった人の営み」と思ってしまえば、そりゃぁ暗記物になってしまう(愚かな!)。しかし、実際はわかっていないことが多く、また歴史の教科書だってそれぞれに「偏った」見方しかしていないのだから、あれはどうなんだろうと疑問を持って一定のレベルに達している(と自分が思う)本を手にして、きちんと読んでみると、間違いなく面白い。そうすると芋蔓式に読むべき本が出てきて、楽しく深みにはまっていくわけだ。
それに、新しい発見やこれまでの定説が揺らぐことも多く、歴史は死んではいない。
また、文献が残っているものだけを基礎にする歴史研究の方法がほぼ崩れてきて、科学分野の学者が参加し大量の資料を集めてコンピュータで分析するという時代になり、わかることの数が増えて歴史が変わっているという面もある。少し前から、今まで以上に歴史が面白くなっている、といっていい。
あの聖徳太子だって、実はいなかった、という説があるぐらいだ。

さてさて『最後の遣唐使』、である。
小野妹子などが派遣された遣隋使、その隋が倒れて唐になって、遣唐使が派遣されるようになった。大陸に渡った学僧や若き知識人、政治家によって日本にもたらされた彼の国の制度や文化的な文物によって日本は新たな時代を迎えた、ということになっている。
外交関係を保ち「政府高官、有識者」を派遣するわけだから、定期的に大陸に渡っては新しい文物を持ち帰ってはこの国で広めたり、政治的・文化的に役立ててきたのだと思っていたのだが、それは外れで、全然定期的な派遣ではない遣唐使である。

おすすめ本書評・紹介書籍

最後の遣唐使
佐伯有清
講談社講談社学術文庫歴史] 国内
2007.11  版型:文庫
価格:840円(税込)
>>詳細を見る

新着情報

2013/08/16[新着書評]
『きことわ』朝吹真理子
評者:千三屋

2013/08/15[新着書評]
『テルマエ・ロマエⅥ』ヤマザキマリ/「1~3巻は大傑作、4~6巻は残念な出来」
評者:新藤純子

2013/06/19[新着書評]
『高円寺 古本酒場ものがたり』狩野俊
評者:千三屋

2013/06/18[新着書評]
連載「週末、たまにはビジネス書を」第11回
『くまモンの秘密 地方公務員集団が起こしたサプライズ』熊本県庁チームくまモン

評者:蔓葉信博

2013/05/12[新着書評]
『フィフティ・シェイズ・ダーカー(上・下)』ELジェイムズ
評者:日向郁

2013/04/04[新着書評]
『クラウド・アトラス』デイヴィッド・ミッチェル
評者:千三屋

2013/03/15[新着書評]
【連載】 蔓葉信博「週末、たまにはビジネス書を」
第10回 『投資家が「お金」よりも大切にしていること』藤野英人
評者:蔓葉信博

2013/02/18[新着書評]
『はぶらし』近藤史恵
評者:日向郁

2013/01/31[新着書評]
『知的唯仏論』宮崎哲弥・呉智英
評者:千三屋

2012/01/30[新着書評]
【連載】 蔓葉信博「週末、たまにはビジネス書を」
第9回 『思考の「型」を身につけよう』飯田泰之
評者:蔓葉信博

2013/01/25[新着書評]
『醤油鯛』沢田佳久
評者:杉江松恋

2013/01/18[新着書評]
『秋田寛のグラフィックデザイン』アキタ・デザイン・カン
評者:千三屋

2013/01/17[新着書評]
『空白を満たしなさい』平野啓一郎
評者:長坂陽子

2013/01/15[新着書評]
『箱根駅伝を歩く』泉麻人
評者:千三屋

2013/01/11[新着書評]
『世界が終わるわけではなく』ケイト・アトキンソン
評者:藤井勉

2012/12/21[新着書評]
【連載】 蔓葉信博「週末、たまにはビジネス書を」
第8回 『ネンドノカンド 脱力デザイン論』佐藤オオキ
評者:蔓葉信博

2012/12/19[新着書評]
『デザインの本の本』秋田寛
評者:千三屋

2012/12/12[新着書評]
「さしたる不満もなく私は家に帰った」第2回「岸本佐知子『なんらかの事情』と近所の創作系ラーメン屋」
評者:杉江松恋

2012/11/28[新着書評]
『ニール・ヤング自伝I』ニール・ヤング
評者:藤井勉

2012/11/22[新着書評]
『日本人はなぜ「黒ブチ丸メガネ」なのか』友利昴
評者:新藤純子

2012/11/21[新着書評]
『私にふさわしいホテル』柚木麻子
評者:長坂陽子

2012/11/19[新着書評]
【連載】 蔓葉信博「週末、たまにはビジネス書を」
第7回 『老舗を再生させた十三代がどうしても伝えたい 小さな会社の生きる道。』中川淳
評者:蔓葉信博

2012/11/15[新着書評]
『格差と序列の心理学 平等主義のパラドクス』池上知子
評者:新藤純子

2012/11/09[イベントレポ]
兼業古本屋のできるまで。とみさわさん、なにをやってんすか

2012/11/08[新着書評]
『機龍警察 暗黒市場』月村了衛
評者:大谷暁生

2012/11/02[新着書評]
『なしくずしの死』L-F・セリーヌ
評者:藤田祥平

2012/10/31[新着書評]
『エコー・メイカー』リチャード・パワーズ
評者:藤井勉

2012/10/30[新着書評]
『文体練習』レーモン・クノー
評者:藤田祥平

2012/10/25[新着書評]
『生きのびるための建築』石山修武
評者:千三屋

2012/10/24[新着書評]
『占領都市 TOKYO YEAR ZERO Ⅱ』デイヴィッド・ピース
評者:大谷暁生

2012/10/23[B.J.インタビュー]
「この翻訳家に聞きたい」第3回 藤井光さんに聞く「アメリカ文学の"音"って?」(後編)
インタビュアー:石井千湖

2012/10/22[B.J.インタビュー]
「この翻訳家に聞きたい」第3回 藤井光さんに聞く「アメリカ文学の"音"って?」(前編)
インタビュアー:石井千湖

2012/10/19[新着書評]
『最後の授業 ぼくの命があるうちに』ランディ・パウシュ、ジェフリー・ザスロー
評者:日向郁

2012/10/18[新着書評]
『イタリア人と日本人、どっちがバカ?』ファブリツィオ・グラッセッリ
評者:相川藍

2012/10/17[イベントレポ]
ミステリー酒場スペシャル ローレンス・ブロック酒場Part1

2012/10/16[イベントレポ]
ブックレビューLIVE:杉江VS米光のどっちが売れるか!?

2012/10/15[イベントレポ]
ミステリ酒場スペシャル ローレンス・ブロック酒場三連発 PART2~泥棒バーニー、殺し屋ケラー編&ブロックおもてなし対策会議~

2012/10/15[新着書評]
『犬とハモニカ』江國香織
評者:長坂陽子

2012/10/10[新着書評]
『Papa told me cocohana ver.1 丘は花でいっぱい』榛野なな恵
評者:千三屋

2012/10/08[イベントレポ]
“その日”が来てからでは遅すぎる! あなたの知らないお葬式のすべて?ボッタクリの秘密から納得のエコ葬儀プランまで

2012/10/04[新着書評]
【連載】 蔓葉信博「週末、たまにはビジネス書を」
第6回 『本気で売り上げを伸ばしたければ日経MJを読みなさい』竹内謙礼
評者:蔓葉信博

2012/10/03[新着書評]
『青い脂』ウラジーミル・ソローキン
評者:藤井勉

2012/10/02[イベントレポ]
松本尚久さん、落語の楽しみ方を教えてください!

2012/10/01[新着書評]
『ヴァンパイア』岩井俊二
評者:長坂陽子

2012/09/27[新着書評]
『A Life of William Inge: The Strains of Triumph』ラルフ・F・ヴォス
評者:新藤純子

2012/09/25[新着書評]
『鬼談百景』小野不由美
評者:挟名紅治

2012/09/24[新着書評]
『ここは退屈迎えに来て』山内マリコ
評者:長坂陽子

2012/09/20[新着書評]
『銀の匙』中勘助
評者:藤田祥平

2012/09/18[新着書評]
『最初の人間』アルベール・カミュ
評者:新藤純子

2012/09/14[新着書評]
『その日東京駅五時二十五分発』西川美和
評者:相川藍

2012/09/13[新着書評]
『無分別』オラシオ・カステジャーノス・モヤ
評者:藤井勉

2012/09/12[新着書評]
『鷲たちの盟約』(上下)アラン・グレン
評者:大谷暁生

2012/09/11[新着書評]
『ラブ・イズ・ア・ミックステープ』ロブ・シェフィールド
評者:日向郁

2012/09/10[新着書評]
『嵐のピクニック』本谷有希子
評者:長坂陽子

2012/09/07[新着書評]
『本当の経済の話をしよう』若田部昌澄、栗原裕一郎
評者:藤井勉

2012/09/06[新着書評]
【連載】 蔓葉信博「週末、たまにはビジネス書を」
第5回 『戦略人事のビジョン』八木洋介・金井壽宏
評者:蔓葉信博

2012/09/05[新着書評]
『ひらいて』綿矢りさ
評者:長坂陽子

2012/09/04[新着書評]
『失脚/巫女の死 デュレンマット傑作選』フリードリヒ・デュレンマット
評者:藤井勉

2012/09/03[新着書評]
『かくも水深き不在』竹本健治
評者:蔓葉信博

2012/09/01[新着書評]
『残穢』小野不由美
評者:挟名紅治

2012/08/31[新着書評]
『わたしが眠りにつく前に』SJ・ワトソン
評者:長坂陽子

2012/08/28[新着書評]
『芸術実行犯』Chim↑Pom(チン↑ポム)
評者:相川藍

2012/08/27[新着書評]
『ぼくは勉強ができない』山田詠美
評者:姉崎あきか

2012/08/16[新着書評]
『オカルト 現れるモノ、隠れるモノ、見たいモノ』森達也
評者:長坂陽子

2012/08/10[新着書評]
『セックスなんか興味ない』きづきあきら サトウナンキ
評者:大谷暁生

2012/08/08[新着書評]
『深い疵』ネレ・ノイハウス
評者:挟名紅治

2012/08/07[新着書評]
【連載】 蔓葉信博「週末、たまにはビジネス書を」
第4回 小林直樹『ソーシャルリスク』
評者:蔓葉信博

2012/08/03[新着書評]
『はまむぎ』レーモン・クノー
評者:藤井勉

2012/08/02[新着書評]
『清須会議』三谷幸喜
評者:千三屋

2012/07/31[新着書評]
『岡崎京子の仕事集』岡崎京子(著)増渕俊之(編)
評者:相川藍

2012/07/30[新着書評]
『月と雷』角田光代
評者:長坂陽子

2012/07/28[新着書評]
『ことばの食卓』武田百合子
評者:杉江松恋
2012/07/18[新着書評]
『図説 死因百科』マイケル・ラルゴ
評者:大谷暁生

2012/07/13[新着書評]
『最果てアーケード』
小川洋子
評者:長坂陽子

2012/07/12[新着書評]
『なぜ戒名を自分でつけてもいいのか』橋爪大三郎
評者:千三屋

2012/07/05[新着書評]
『少年は残酷な弓を射る』(上・下)
ライオネル・シュライヴァー
評者:長坂陽子

2012/07/04[新着書評]
『未解決事件 グリコ・森永事件~捜査員300人の証言』NHKスペシャル取材班
評者:挟名紅治

2012/07/02[新着書評]
『女が嘘をつくとき』リュドミラ・ウリツカヤ
評者:藤井勉

2012/06/29[新着書評]
連載 蔓葉信博「週末、たまにはビジネス書を」
第3回 三浦展『第四の消費』
蔓葉信博

2012/06/27[新着書評]
『シフォン・リボン・シフォン』近藤史恵
評者:相川藍

2012/06/26[新着書評]
『湿地』アーナルデュル・インドリダソン
大谷暁生

2012/06/22[新着書評]
『話虫干』小路幸也
長坂陽子

2012/06/20[新着書評]
『彼女の存在、その破片』野中柊
長坂陽子

2012/06/15[新着書評]
『新人警官の掟』フェイ・ケラーマン
日向郁

2012/06/14[新着書評]
『俳優と超人形』ゴードン・クレイグ
千三屋

2012/06/13[新着書評]
『毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記』北原みのり
長坂陽子

2012/06/12[新着書評]
『WOMBS』白井弓子
大谷暁生

2012/06/11[新着書評]
『21世紀の世界文学30冊を読む』都甲幸治
藤井勉

2012/06/08[新着書評]
『愛について』白岩玄
評者:相川藍

2012/06/06[新着書評]
『柔らかな犀の角ー山崎努の読書日記』山崎努
挟名紅治

2012/06/04[新着書評]
『夜をぶっとばせ』井上荒野
長坂陽子

2012/06/01[新着書評]
「七夜物語』川上弘美
長坂陽子

2012/05/30[新着書評]
連載 蔓葉信博「週末、たまにはビジネス書を」
第2回 高畑哲平『Webマーケティング思考トレーニング』
蔓葉信博

2012/05/23[新着書評]
「ピントがボケる音 OUT OF FOCUS, OUT OF SOUND』安田兼一
藤井勉

2012/05/21[新着書評]
「飼い慣らすことのできない幻獣たち」
『幻獣辞典』ホルヘ・ルイス・ボルヘス
藤田祥平

2012/05/16[新着書評]
連載「長坂陽子 ロマンスの神様願いを叶えて第18回」
「その名は自己満足」
長坂陽子

2012/03/30[新着書評]
連載「長坂陽子 ロマンスの神様願いを叶えて第17回」
「そのプライドが邪魔をする」
長坂陽子

2012/02/28[新着書評]
連載「長坂陽子 ロマンスの神様願いを叶えて第16回」
「恋のリスクマネジメント」
長坂陽子

2012/02/15[新着書評]
連載「長坂陽子 ロマンスの神様願いを叶えて第15回」
「非華奢女子の生きる道」
長坂陽子

2012/02/02[新着書評]
連載「長坂陽子 ロマンスの神様願いを叶えて第14回」
「パターン破りの効用」
長坂陽子

2012/01/31[新着書評]
『最高に美しい住宅をつくる方法』彦根明
評者:相川藍

2012/01/20[新着書評]
『ペット・サウンズ』ジム・フジーリ
評者:藤井勉

2012/01/17[新着書評]
連載「長坂陽子 ロマンスの神様願いを叶えて第13回」
胸だけ見ててもモテ期はこない
長坂陽子

2012/01/11[新着書評]
連載「長坂陽子 ロマンスの神様願いを叶えて第12回」
「恋で美しくなる」は本当か
長坂陽子

2012/01/10[新着書評]
「旧式のプライバシー」
『大阪の宿』水上滝太郎
藤田祥平


Internet Explorerをご利用の場合はバージョン6以上でご覧ください。
お知らせイベントBook Japanについてプライバシーポリシーお問い合わせ
copyright © bookjapan.jp All Rights Reserved.