俳優としての山城新伍をまったく知らない人でも、「チョメチョメ」という不思議な擬音語は聞いたことがあるのではないでしょうか。「チョメチョメする」などというと、なにやら性的な隠語めいて使われたりしますし(いや、最近はあまり使ってる人、いないですかね)、性行為や、ズバリ男性器を指して使われることもあるようです。しかし「チョメチョメ」は、元々はそうした性的なニュアンスとは関係のない言葉で、これは1979年~85年にかけて放映されていたテレビのクイズ番組「アイアイゲーム」で使われた言葉でした。
例えばなにかひとつのセンテンスを完成させよ、という出題の場合、「○○するとうれしい」などと書かれたボードなんかが用意されていて、この○○の部分を答えるわけですが、この伏字になっている部分を、普通なら「マルマルするとうれしい、さて、何でしょう?」とか、「ナニナニするとうれしい」などと言うわけですけれど、これを山城新伍は、「チョメチョメするとうれしい。さて、何?」というふうにやったわけです。ちなみに、「チョメチョメ」と同様の使われ方をし、やはり秀逸なオリジナリティを持った表現としては、TBSアナウンサー時代に久米宏が、やはりクイズ番組である「ぴったし カン・カン」で使った「ほにゃらら」があります。
茶の間からは、実は博学で、本来は役者であるらしいエロいおやじと思われていた山城新伍が「チョメチョメ」。育ちの良さを滲ませるインテリでありながら、どこかすっとぼけたユーモアを持った久米宏が「ほにゃらら」。それぞれ見事に2人のキャラクターに沿ったヘンな擬音語として、テレビ史に残る傑作であることは間違いないと思います。
どうも冒頭からふざけたことを書いてしまっているようですがそうでもなくて(!)、「復刊」という出版界でのささやかな(時に絶大な)ドラマは、この「チョメチョメ」に関わることなのです。出版流通の世界でブランクに、つまりチョメチョメになっていることがすなわち絶版状態であり、それを見事に「回答」すること、正解をたたき出すことが「復刊」だからです。
強引なようですが実はこれは水道橋博士(浅草キッド)の受け売りで、『若山富三郎・勝新太郎 無頼控 おこりんぼ さびしんぼ』(長いので以下『おこりんぼ』と略します)の解説でライターの吉田豪氏が、次のように書いています。
【浅草キッド・水道橋博士も、「今まで読んできた全タレント本の中でベスト」なのに、「現在絶版であり文庫化の予定も無く、入手は困難」だから、「このタレント本の金字塔を、世の中から“チョメチョメ”、つまり紛失させない」ために長文の書評を書いたと熱く語っていた。】
水道橋博士の熱い書評、加えて、その著作で山城新伍へのロングインタビューのある吉田豪氏のプッシュがあって、めでたく『おこりんぼ』が文庫として復刊された、というわけです。
『おこりんぼ』は、およそ300ページの文庫本ですが、まったく中だるみすることなく、一気にするするすると、トコロテンのようにノド越しもさわやかに賞味することができる本です。しかも、余韻が深い。演技論、映画論ではなく、若山富三郎と勝新太郎という、見た感じ完璧にコワモテの、しかし実に繊細極まりない兄弟の身辺に長く親しく滞在した人間のみが書きうるエピソードがいろいろ散りばめられていくわけですが、この本の真の=芯の面白さは、数々の逸話のボルテージの高さ、奇天烈さに依存したものではまったくありません。