恩田陸にはもともと戯曲作家の資質があったが『チョコレートコスモス』(毎日新聞社)で女優の世界を題材にしたことで(というより、もう一人の北島マヤの話を書いて)さらに才能を強化した、というのが私の持論だ。『訪問者』も、一幕ものの戯曲を思わせる密室劇である。人々が山荘から出られなくなったところで事件が起きる、という定番の状況設定を真面目に書いたミステリーだ。いわゆる「雪の山荘」ね。「小説NON」で五年前に連載が終了していた作品なので、いつ本になるのかファンはやきもきさせられていたはず。なんで単行本化がここまで遅れたのかはわからないが、相当加筆を行ったのかしらん。
アガサ・クリスティーの世界を忠実にトレースした作品、という第一印象はだいたい合っている。冒頭で『葬儀を終えて』(早川書房/クリスティー文庫)のコーラ・アバネシーを思わせる発言があってニヤリとさせられる、とか、終盤にクリスティー初期作品に関する言及があるけどそれは煙幕で、作者が意識したのはどちらかといえば中期のあの作品でしょう、とか、クリスティーのファンとしてはいろいろ楽しみどころがありました。映画監督が死亡し、その生物学上の父親を探すという任務を負った男が館を訪問してくるというのが発端で、そこに財閥の相続人だった女性が溺死した事件の謎が絡む。記憶の中の死を題材としたものでは、すでに『木曜組曲』(徳間文庫)など作者自身の先行作品があるのでそれほど新味はないが、訪問者が現れるたびに事件の様相がガラリと変わるという戯曲的な展開は過去の作品にはなかったものだ。恩田ファンなら必読だが、それ以外の人は過去の作品を読んでからでも大丈夫。☆☆☆☆。
とてもおすすめ | ☆☆☆☆☆ |
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おすすめ | ☆☆☆☆ |
まあまあ | ☆☆☆ |
あまりおすすめできない | ☆☆ |
これは困った | ☆ |