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正社員が没落する/反貧困/ルポ 貧困大国アメリカ


貧困が広がれば、いつか自分も没落することを理解するために。

正社員が没落する─「貧困スパイラル」を止めろ!
堤未果湯浅誠
角川書店角川oneテーマ21社会] 国内
2009.03  版型:新書
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反貧困─「すべり台社会」からの脱出
湯浅誠
岩波書店岩波新書社会] 国内
2008.04  版型:新書
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ルポ貧困大国アメリカ
堤未果
岩波書店岩波新書ノンフィクション] 国内
2008.01  版型:新書
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レビュワー/近藤雄生

日本で「貧困」という言葉をこれほどよく耳にしたのは、初めての気がする。単なる「貧困ブーム」なのか? いや、そんな軽いものではない。

貧困は、発展途上国の問題であり、また日本ではほんの一部の「かわいそうな」人たちだけの問題であり、私たちは裕福な側からそういう人たちを支援するのだ、と日本の多くの人が思い続けてきたはずだ。しかし、もはやそうではなくなった。『正社員は没落する』の著者の一人である湯浅誠氏は、こう述べる。

<一億二千万の人口のうち、どう考えても、どう少なく見積もっても、一億は負け組だと思うんです。>(『正社員は没落する』より)

貧困という段階にまでいっていなくても、過労死するほど働かざるをえない状況にいたり、貧困スレスレのラインでなんとか生活している人たちをあわせれば、一億人はいくだろう、ということだ。その誰もが貧困に堕ちていく可能性があり、大多数の日本人にとって貧困が決して他人事ではないことを、『正社員が没落する』は論理的に説明していく。派遣切り、内定取り消し、という言葉が飛び交う中、とにかく正社員になれればなんとか安泰だろうというような風潮もあるが、いや、そうではない、いまの状況をほっておけば、多くの正社員を含む中間層が一気に貧困に陥るのだというのが、『正社員が没落する』の著者である湯浅誠・堤未果両氏の主張である。

湯浅誠氏は昨年、『反貧困』によって、日本で貧困な人たちが生み出される構造的問題を論理的に明らかにした。貧困は、決して「ぐうたらな人の自己責任」にかかわる問題ではなく、競争原理を原動力とする行き過ぎた民営化と市場経済がもたらす構造的問題なのだと訴えた。同様に、堤未果氏も昨年『ルポ 貧困大国アメリカ』によって、そんないまの日本で起きていることは、アメリカですでに起きていることをそっくりそのまま後追いしているのだということを驚愕の事実とともに知らしめてくれた。

<「貧困」とは、単に金銭的に貧しいことだけを意味するものではない。たとえ経済的に困窮しても、かつてならば家族や親戚、地域社会などが受け皿となって新たな職場を紹介してくれたり、家業を手伝いながら今後を考えることも可能だった。いまの「貧困」は、違う。所得が低いばかりではなく、頼れる人もおらず、そこから抜け出る足がかりさえもない、すなわち明日の見通しがまったく立たない状態なのである。それは単なる経済問題ではなく、この国を支えてきた土台が、砂のように崩れ始めているように、私は思える。>(『正社員が没落する』第三章 湯浅誠氏の報告部分より)

一度何かを間違えると、そのような「抜け出る足がかりさえもない」貧困に簡単に堕ちていくいまの日本社会を湯浅氏は「すべり台社会」と呼ぶ。そして問題は、本来私たちの生活を重層的に守ってくれるはずのセーフティネットがほとんど機能していないことだと指摘する。働いて生活を維持できるのが「雇用のセーフティネット」。失業や病気をしても、失業保険、健康保険や年金によって生活を維持できるのが「社会保険のセーフティネット」。そしてそれもかなわぬ場合、生活保護を受けることで生活を維持できるのが「公的扶助のセーフティネット」。その三層のセーフティネットが本来あるはずだが、日本ではいま、そのどれもが十分に機能しているとは言いがたい。

非正規雇用者が増大し、雇用が不安定になるとともに賃金も極限まで削られ、「まじめに働いてさえいれば、食べていける」社会が消失した。それにともなって各種保険料を支払えずに医療などを受けられない、住居を持つことができない層が増える(そんな状況にもかかわらず社会保険の予算が年々削られている)。そして最後の砦ともいうべき生活保護も、そのマイナスイメージや、自治体の窓口で追い返すいわゆる「水際作戦」によって、実際に必要な人の15~20%程度しか受けることができていないとされる。

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