この財宝を巡っては後の時代にも、享保の改革で将軍吉宗が当時の寺社奉行兼関東地方御用掛けだった大岡越前守忠相に結城家の財宝発掘を命じているが、地下水による崩壊と死亡事故のため目的を達する事はできなかったと書いている。実際の発掘プロジェクトでは、共同出資者とのトラブルや地盤調査の地中探知機の不調、また発掘現場の地主の反対など、ここでもトレジャーハンターの多難な経緯と過去の発掘者たちの意外な発見、そして果敢な挑戦の軌跡が記される。
埋蔵金発掘では、考古学の調査と宝探しが混同される事がよくあるが、根本的にスタンスが違い、考古学は言うまでも無く未知の歴史を解明するのが目的で、結果として財宝にぶち当たる事もあると言う。トロイア遺跡発見のシュリーマンや、王家の谷の調査でツタンカーメンの秘宝を探り当てたカーターなどが良い例だが、たとえ土や石の遺物でも考古学分野ではすばらしい価値が認められる。それに対し、宝探しの方は金銀・宝石など値打ちの判りやすい物を見つけるのが目的で、その成果に付随して隠されていた歴史が明るみに出る事もあるそうだ。しかし、作業は同様に苦労の連続だが、こちらは一文にもならないという点が決定的な相違で可笑しい。
これまで30年間の取り組みから、最後の章では、洋の東西を問わずトレジャーハンターたちの気持ちは同じで、100%の確信など誰も持てるはずが無いのだから、自分自身も半信半疑なくせに「あとひと掘りで出る」と願望と意志を込めて、取りあえず口にする。宝探しの醍醐味は不確か故に面白いのであって、最初から確実に何かが埋もれていたり、沈んでいたりする事が判っていると、その行為自体が単なる土木作業かサルベージになってしまい、実につまらないと書いている。
著者が、嘗てから念願の世界一のトレジャーハンターであるメル・フィッシャー氏に面会を求めてフロリダ州キー・ウェストまで会いに行く件がある。メキシコ湾の海底から沈没船の財宝で時価およそ10億ドルの発見例を持つトレジャーハンターとしての信条を問うと、彼のモットーが“Today’s the Day”、つまり「今日がその日だ」であると語って聞かせるエピソードなどが大変面白く読める。
この摩訶不思議で怪しげな宝探しの世界へ足を踏み込むには、ある種の覚悟がいるらしく、著者のインターネットのホームページには、冒頭 次のような警告が記されている。
「トレジャーハンティングは夢とロマンの対象である反面、とんでもない魔性も秘めています。一攫千金の欲望だけにとりつかれて、人生のほとんどを探索にかけ、財産を失い、家族や社会的信用も失い、最後は食うや食わずで独り寂しく死んでいった人が何人もいます。~中略~ 本気になってのめり込むことなく、客観性と遊び心を失わなければ危険も回避でき、ほかにはない醍醐味を味わうことができるでしょう。ただし、完全な遊びにしてしまうと、実につまらないものになりますから『やる以上は真剣に、引くべき所は思い切りよく』というのがトレジャーハンターの鉄則です。」と…。
本書読むと将にロマンと魔性が背中合わせの中、「トレジャーハンター」と言う名の冒険者はインディ・ジョーンズの如く、綿密な資料の渉猟と分析力や探査技術に加えて、様々な局面で自己を見失わない精神的ゆとりと的確な判断力、その上で目的に対する情熱の持続性が試される事になるのが実感できる。異常に興味をもたれても困るところだが、歴史と冒険と財宝に興味のある向きには、今や希少本となりつつある『日本の埋蔵金100話/八重野充弘著(立風書房刊)』も併せて読まれる事をお薦めしたい。