さてと、ダーウィンの進化論が重要な発見であり、進化についてかなりよく説明してくれていることもわかるのだが、うまく当てはまらない変なところもある。ダーウィンの生きた時代の宗教的な力もあって突っ込みが足りなかったか、あるいは本当のことを言えなかった部分、科学的手段が幼くてまったく手をつけることのできなかった進化の部分などがあるわけだ。その後の生物の研究によって、ダーウィンが間違えていたということもあるにはある。もちろん、正しいと認められたことも沢山ある。
近代から現代になったところで、化石を集めて時代順に並べてどう変わってきたかを推理するという手段以外にも、進化の筋道を知る方法が考え出される。
その中で、ヒトゲノム「ヒトの遺伝子情報」の解析、解読が終わり、それによって進化の道筋をある程度解くことができるようになったことが大きい。進化論を大きく進化させたといっていい。今生きている生物のDNAを調べ比較することで、進化の系統がわかるのだ。
ダーウィンの進化論に加えて、その他の学者たちの「今では妥当だと思われる」進化の考え方、化石の研究などで積み上げてきた進化の理論など、これまでの進化論の歩みと、「新しい」進化論でわかるようになったことが簡潔にまとまった明快な本である。
オランウータンと「ゴリラ・チンパンジー・ヒト」は、1300万年前に別れた。その後、ゴリラと「チンパンジー・ヒト」は600万年間、チンパンジーとヒトは490万年前に別れたということが、分子時計でわかった。ということで類人猿の中ではチンパンジーがヒトと一番近いということになる。
これは従来の説とは異なっていたので論争になった。それまでは1400万年前に類人猿とヒトが別れたとされ、別れた相手はラマピテクスで、それがヒトの先祖とされていたが全然別の話になってしまった。
その結論を導き出した「分子時計」が何かはこの本を読むと、よくわかる。
こういう言い方は失礼なのだが、書き手のお二人もこの17年間に「書き方を進化させた」と思う。興味を上手に繋ぎながら、新しい進化論の状況に読者を誘い込み、「ね、こういう風に考えると、どうしてもそうなるでしょ、わかりますね」と畳みかけてくる。この加減が抜群なのだ。
人は「ヒトがどう進化してきたか知らないではいられない生き物」である。その、「ということで現在に至る」という流れと、この流れに今どんな問題が立ちはだかっているかを、非常に平易な語り口で解説してくれる。
今、進化論で「何が問題か」ということを列挙してこういう考え方があると示す。
これ、科学っぽくていいんですよ。
どこかで、何かの機会に、「あのね、進化論てのは」とひとくさり話題にしたいタイプの人は読まなきゃ! 科学は本当に面白いです。
私は、動物植物を問わず「生き物が好き、生き物に興味がある」とのたまう人は、何しろ進化論をおさらいしておくべきだと思っているので、この本はそれに適していると思う。
鯨が、偶蹄目(牛など)の系統だとわかる。それを知ると私などは「鯨? あれ、もとは牛なんだよ。両生類、爬虫類と来てやっと海から離れて陸上生活をするようになって、牛まで進んでから海に戻ったんだね、何があったんだろう」と、ビール片手に結論のでない話をするのが好きなのだ。