見出しとして上にいれたこの短歌(うた)は、著者が中村うさぎさんに連れて行ってもらった「トップダンディ」というホストクラブに行ったときのことを詠んだ一首だとか。思わずニヤッとしてしまいました。文庫版の「おまけ」として掲載したものだと「文庫版のためのあとがき」に書いてありました。
この短歌(うた)然り、ひと言で言うと、このエッセイ集、全体を通して流れる「ほろ酔い気分」が、とても心地良いのです。それにしても、私は、この本を手に取るまで、俵万智というひとが、こんなにお酒が好きな方だとは知りませんでした。知ってしまって、同じ酒を愛するものとして、大いに共感すると共に、多少セコくも、酒飲み話のネタとして、色々と知識を仕入れさせていただいたのであります。
そのひとつが、燗酒のこと。人肌燗、ぬる燗、熱燗の他にも、日向燗、上燗、飛び切り燗なんていうのがあるのだそうです。そして、さまざまな日本酒を取り揃えている「真菜板(まないた)」という店の主人が、燗で飲むならと奈良の「梅乃宿」という酒を薦めてくれたという話になり、「これはね、燗あがりのする酒なんですよ」と言ったという逸話に、私も思わず喉を鳴らしました。燗をすることによって、よりおいしくなる酒を言うのだそうで、なかなか味な日本語ではありませんか。今度、何かの折に絶対使ってみようと、さっそく、そう思う私でした。
本書は、こうした話と同時に、「真菜板」の場所、電話番号等も注釈で教えてくれる周到さ。そして、もちろん、歌人の万智さん(私もほろ酔い気分となって、気持ちがほぐれて来たので、著者などと呼ぶのをやめました)、お酒にまつわる短歌や和歌についても熱く語ってくれています。
まずは、「万葉集」から、「酒を讃(ほ)むる歌」として、大伴旅人の和歌を。
賢(さか)しみと物言ふよりは酒飲みて酔い泣きするし優(まさ)りたるらし(偉そうに物を言うヤツよりも、酒を飲んで泣いちゃったりするヤツのほうが、俺はマシだと思うよ)
あら醜(みにく)賢しらをすと酒飲まぬ人をよく見ば猿にかも似る(おー醜いこと。偉そうにして酒飲まないヤツを見ると、猿にそっくりじゃん)