第三章には、出演作を手がけた監督たち(市川崑、篠田正浩、降旗康男)と、スクリーンで共演してきた数限りない魅惑の女性スターたちの代表として、淡島千景と司葉子に対するインタビューが収録されており、多角的な視点から「映画俳優・池部良」の捉えがたい魅力を探ろうとする本書の試みに、さらなる厚みを与えています。いずれのインタビューの内容も興味深いものですが、とりわけ、「良ちゃんはわりと怖がりなところがあるの。歯医者が怖かったらしくて、私に『女の歯医者さんを知らない? なるべく美人がいいよ』と聞かれたときはとてもおかしかった」(253ページ)と語る淡島千景の暖かみのあるお茶目さ、あるいは、池部良の恋人役を演じた『君死に給うことなかれ』(監督:丸山誠治、東宝、1954年)でデビューを果たし、二作目『不滅の熱球』(監督:鈴木英夫、東宝、1955年)でも続けてカップルを組んだ後、三作目では宝田明の恋人役を演じた際に、「浮気をしているようですっごく罪悪感を感じましたね」(263ページ)と語る司葉子の可愛らしさ―と、女性スターお二方のコメントが、微笑ましくてチャーミングで、なんとも魅力的です。そして、その後に続くのは、まさに「健さん」にしか書くことができない言葉によって綴られた、高倉健による感動的な書簡です。先に引用した「不器用な俳優」評に続く文章を以下に引用します。
「数々のヤクザを演じた俳優の中でも、私にとって、歌えない、踊れないを、謳わない、踊らないに変えた初めての俳優でした。
絶品でした。
恥じらいと悲しみ、モダニズム、育ちの良さ、ぎこちなさまでを追い風にした先輩のお人柄でしょうか。
つくづく、俳優という職業、演技ということの不思議さを思います。」(271ページ)
さらに第四章には、各作品ごとに池部良への愛と敬意に満ちた詳細な解説の付けられた、きわめて充実した全出演作品のフィルモグラフィーが収録されています。
高倉健=花田秀治郎と池部良=風間重吉の「花と風」の道行きが限りなく美しい『昭和残侠伝』シリーズをはじめ、魅惑の出演作の数々を、スクリーンで、あるいはビデオやDVDで見ることで、「映画俳優・池部良」の輝きを、さらには全盛期の日本映画の輝きを、改めて、あるいは初めて発見するにあたり、この一冊は、まさに恰好な案内役をつとめてくれることでしょう。