先に、順に読むべきだといっていて、自分が飛ばしているのだから申しわけない。
数作飛ばして久々読んだ『異邦人』。
お馴染みの登場人物が皆揃っているので、おお「久しぶり」とは思ったのだが、長年の人間関係がほぼ破綻しかけている。その上、全く知らない心底嫌な人間が出てきて、こいつに「この一冊分悩まされるんだな」と思い、心を奮い立たせて読み始めた。
たいていの小説は主人公には同調し心を寄せていけるようにできているものだけれど、今回はその印象もあまりなくて、主人公までいやな人間の部類である。それでいて、面白くないかというとこれが非常に面白い。
ミステリーなので、安易に展開を紹介できないし、読み処が多いので紹介は短めに。
最初のページから残忍な殺しが行われつつある場面で、一気に緊張が高まる。
その冒頭の場面からシーンが変わるとそこでの会話から、人気上昇中の女子テニスプレーヤーがローマで殺されて、目玉がくりぬかれ、砂が詰められていたという事件があったことがわかる。
小説の中でも、こういう事件は厭やなもの。で、これが被害者一人では終わらないらしい。冒頭の人殺しが行われそうな情況は、二人目の犠牲者が出るところなのだろうと想像させる。
そして女子テニスプレーヤー殺人事件のために主人公の検屍官がイタリアにいて、ローマの法医学者と精神科医と話しているシーンが出てくるのだけれど、この二人のイタリア人がどうも何かを隠している感じがする。読んでいて、何を隠しているんだろう? と思わせる。
目玉をくりぬいて詰めてあった砂が特徴のある砂で、その辺りから検屍官は事件をたぐっていく。この検屍官に襲いかかる精神的肉体的苦労、その上に「前の作品から主人公に恨みを抱いている者」による悪辣な企みなど読んでいて息苦しくなるような展開。
周囲で高まる雑音の中、主人公が淡々と最新の科学捜査によって調べを進めるシーンは、著者のコーンウェルが取材して来た感じが「やや生のまま」出ていて、少し鬱陶しい。「科学的に」間違いないように書こうとしたあまり、自分の言葉になっていない気がした。翻訳でそう感じるぐらいの内容が続く。そこだけは少し退屈だったが、やはりコーンウェルは面白い、いやな人間を書く名手だと思う。
新刊紹介としては不親切とは思うけれど、検屍官シリーズ、1から14まで読んでから、この15にかかった方がいいと思う。それだけ時間をかける価値があるミステリー・シリーズだと思う。