ロミオとジュリエット度★★★★ ラテンの情熱度★★★★ たくましい女度★★★★★
異国は人を開放的にするのでしょうか。それとも、運命の人に出会ったら、場所なんて関係ないのでしょうか。たとえその恋を国家が許さなくても、欲しいものを欲しいと言って取りに行けるような、力強い女になりたい!
本作のヒロイン、カリーは、運命の相手に出会い、そんな強さに目覚めた女性です。大切な人のために、壁をよじ登り、爆風をくぐりぬけ、燃える町に走り出していく。彼女に命を助けられた軍人たちは、畏敬を込めて彼女のことを「たくましい女性(ラ・ダマ・フエルテ)」と呼びます。
革命前夜の南米の小国ヴィスタリア。現在は穏健派が政権を握っていますが、アメリカの経済的支配を拒む反政府テロ組織が革命の機会を虎視眈々と狙っています。ヴィスタリアでの銀山の発掘作業に携わる叔父によばれ、大学の夏休み、モンタナからこの地にやってきた経済学講師のカリーは、叔父との待ち合わせに失敗し、所在なくたたずんでいたところを、地元の男たちにナンパされ、少々厳しくやりかえしたところ、なんと男たちが警察の人間で、牢屋に入れられてしまいます。折しも町は、祭りで湧きかえり、いたるところでオリーブ色の肌に黒い髪をした男女が情熱的な音楽と踊りに身を任せていました。祭りの熱に浮かされ、牢の中のカリーを下卑た目で見つめる男たちに身の危険を感じていたところに現われたのは、この国には珍しい赤い髪に青い目の男。彼が来たとたん、牢番たちは姿勢を正して頭を垂れ、彼の命令によって、彼女は釈放されました。男は、カリーのような金髪碧眼はこの国では非常に目立ち、アメリカ人を良く思わない人間もこの国にはたくさんいるのだから行動に気をつけるようにと忠告を残し、名前も告げずに姿を消します。
その日から、カリーは夜毎、その男に抱かれる夢をみるにようになります。恋人と別れたのはもう5年前。ずっと忘れていた、否、もしかしたら生まれて初めてかもしれないほど、誰かを強く求める気持ち。いったい彼は何者なのか。生々しい熱に追い立てられるように、カリーは彼のことを調べ始めます。男の名前は、ニコラス・エスコベド。「赤い豹(エル・レオパルド・ロホ)」の異名を持ち、兵士たちに崇拝者が多数いる、大統領の異母弟でした。二度と会うことのない、遠い世界の男――その想いをよそに、招待されたパーティの席でカリーはニコラスと再会します。しかし、ニコラスは、彼女への情熱を隠さないまま、関係を持つことはできないときっぱり告げるのです。ヴィスタリアで政治的な影響力を持つ彼が、アメリカ人とのハーフであることだけでもつけこまれやすいのに、さらにアメリカ人女性と恋に落ちては、反政府派の革命の口実になりかねないからと。
発覚すれば、国が覆る恋。惹かれあっていることをお互いに自覚しながらも、触れあうギリギリのところで自制した彼らを、しかし、運命は幾度となく引き合わせます。そしてカリーは、現地でできた友達とのパーティが反政府組織に襲撃され、ニコラスとともに死線をくぐり抜けたことを契機に、彼のすべてを受け入れ、一瞬でもいいから、この恋を成就させる決意をするのです。彼らの許されざる恋の行方とは――?
今回のポイントは、女性の「強さ」。とはいうものの、カリーは一介の経済学講師ですから、多少の空手はたしなんでいても、肉体的な強さはそんなにありません。でも、それを補ってあまりある、心の強さに恵まれています。カリーはニコラスに、「ほかに女の人も大勢いるのに、なぜわたしなの?」と訊きます。それに対してニコラスは「独房できみをはじめて見たときだった。きみはたいていの男ですら根をあげるような状況に放り込まれた。だが、あのとき、独房の窓のところに立っていたのは、脅えてすくみあがった女じゃなかった。振り返って私に気づいたとき、きみは助けてくれと頼むことも、泣くこともしなかった。私はきみの強さを知った。つぶれることのない強さを。それはとても……貴重なものなんだ」と答え、会うたびに、その確信を強めていくのです。
国家を揺るがす恋ですから、もちろん周りの人も止めます。奔放な性格のはずの従妹のミニーですらも「彼とかかわっちゃだめよ、カリー。彼はだめ」と言い、カリーはわかっている、とうなずきながらも「でも、爆発のあとでは、そんなことどうでもいいように思えたの。くだらないことはすべて忘れて、ただありのままを伝えるべきだって思った。だからそうしたわ。わたしの気持ちを彼に伝えた」と思いのたけを吐露します。こんなふうに本気でぶつかってくる女性には、たとえ国の英雄だって、勝てないんじゃないでしょうか。だって壁をよじ登って告白するんですよ。逆版「ロミオとジュリエット」じゃないですか。でも、その強さは、カリーがアメリカにいたときには気づかなかった強さです。運命の人、ニコラスと出会ったことで、自分の中にある強さに目覚めていったのだと思います。
まあしかし、そんなふうに恋熱に浮かされている背後では、革命の影が着実に忍び寄ってきています。二人の恋が、ヴィスタリアという国にどんな影響をもたらすのか、かなり衝撃の展開が待っていますので、どうぞお楽しみに。
こっそり付け加えると、エロいです。いわゆる、エロティック・ロマンスです。ラテンのお国柄でしょうか。もう欲求不満なのかと思うくらい、ヒーロー・ヒロインと夢の中で妄想しまくりです。けれども、上記のように、なかなか一線を越えにくい立場なので、実際に……となるには、けっこう長い道のりが。それゆえ、超えたらまた一段と燃え上がってしまうので、そのあたりもご期待ください。