片想いに共鳴度★★★★★ 子爵ツンデレ度★★★★★ 女子の友情度★★★★
<一八一〇年三月二日
今日、あたしは恋に落ちた。>
10歳の少女は、お隣に住む親友の兄に恋をした。伯爵家の継嗣で、金髪碧眼の完璧な美貌を持った19歳のターナー子爵。彼は、友達に醜いと言われて落ち込んでいた少女に、濃い茶色の髪も目も、豊かな唇も青白い肌もとても好きだと慰めた。そして彼女に日記をつけることを薦めた。いつの日か、彼女が成長し、賢く美しい女性、<本当のきみ>になったとき、今日のこの日を笑えるように。その日は必ずくるからと。少女――ミランダは、一瞬で恋に落ちた。
ミランダが日記に綴るのは彼、ターナーのこと。彼が結婚したときは胸が張り裂けそうで、それでも恋の喜びに輝く彼を見つめることをやめられなかった。初恋を知ってから9年の時を経て、ミランダは<本当のきみ>になった。そして、ターナーは、変わってしまっていた。彼の美しい妻は事故で亡くなったばかりだったが、結婚前から不貞を働き、彼を裏切っていたのだ。彼の愛は失われ、かつての純真さも死に絶えた。妻の葬儀の日、深夜に、ひとり酒を呷るターナーの姿を見つけたミランダは、彼にキスされる。それは、長いあいだ夢みていた瞬間。だが、そこに恋や愛はなかった。逃げ帰ったミランダは、その日、日記をつけなかった。
翌日、ターナーの妹であり、ミランダの親友であるオリヴィアが驚きの提案をする。オリヴィアの双子の兄ウィンストンとミランダを結婚させようというのだ。そうすれば、二人は姉妹になれるし、どうやらウィンストンはミランダに気があるらしいからと。まるで、ターナーに初めて恋をしたころのような外見と無邪気な性格のウィンストン。とまどいながらも、ウィンストンに笑顔を見せるミランダに、なぜかターナーは苛立ちを覚え、気がつけば弟とミランダの仲を邪魔しようとしていた。完璧ではない初恋の人の姿を目にしたミランダに、ある変化が訪れる。
<ターナーだった。彼の匂いは知っていた。彼の息づかいも知っていた。
彼のそばにいるとき、空気がどんなふうに感じられるかを知っていたのだ。
そのとき、ミランダははっきりと心から悟った。それが愛だということを。
それは愛だった。男への女の愛だった。彼を白馬の騎士だと考えていた少女は消えてしまった。いまや彼女は一人前の女性だった。彼の弱点を知っていたし、欠点も目の当たりにしていた。それでも、彼を愛していた。
彼を愛し、彼を癒したかった。それから――。>
一方、もう誰も愛さないと心を閉ざすターナーにも、徐々に変化が表れていた。ミランダの大きな茶色い瞳と率直な愛の言葉は、ターナーを動揺させ、冷たく無情な態度を取りながらも、ミランダを構わずにはいらなくさせた。そしてついに、二人が一線を超えたとき、ターナーがとった行動とは?
自分を信じる気持ちを年上の少年から教えられた少女は、9年もの間、彼のことを忠実に思い続けています。遠くから見つめていた片思いが、触れられる距離の現実の男性として現れたとき、彼女は大人への階段をのぼり、新たに愛を知るのです。
でも、この片想いの相手はなかなか手ごわくて、すぐに恋愛成就というわけにはいきせん。はっきりいって、ターナーはツンデレです。死んだ妻の悪女ぶりがよほどこたえたのか、すっかりヤサぐれて、ミランダにもつれない態度をとりまくります。いわく、結婚する気はない、キスしたのは欲望じゃなく隣にいたからだ、弟と結婚したら君は玉の輿だ、等々。挙句の果てには、ミランダの前から逃亡です。新しい愛の予感に、恐怖を感じてしまう、可哀想なターナーに、9年越しの愛を捧げるミランダの心情は、本当に切なくて切なくて、胸がギュっと痛みます。またターナーときたら、ヤサぐれた上に、S(エス)っ気まで覚えてしまって、ミランダをわざと怒らせて反応を楽しんだりするのです。ターナーったら、大人の階段、のぼりすぎだから! ……そんなところも含めて楽しめます。
それ以外にも、ミランダと親友オリヴィアとの友情も読みどころのひとつ。オリヴィアは、兄たちと同じ、金髪碧眼の完璧な美少女ですが、幼いころからミランダと互いに認め合い、助けあっています。ミランダを子供のときに侮辱した近所の少女と喧嘩をしたり、ミランダの母親が亡くなった夜、ずっとそばについていたり。ミランダは、早くに母親を亡くしており、父親は学者バカだったので、オリヴィアの家に面倒をみられて育ったのです。そんな彼女たちの会話は、家族のいたわりに満ちています。ターナーはそれもあって、妹にも等しいミランダに手を出すことに余計自責の念を覚え、ミランダとの関係が家族に不協和音を与えかねないことを恐れるのです。
長く変化のなかった片恋日記が、波乱万丈な恋物語となり、いかに素晴らしいハッピーエンドを綴るのか、ぜひその目でお確かめください。