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フロスト気質 上・下

たぐいまれな下品キャラのフロスト警部、いつものように絶体絶命の窮地から事件を解決。

R・D・ウィングフィールド芹澤恵
東京創元社創元推理文庫ミステリー] 海外
2008.07  版型:文庫
>>書籍情報のページへ
レビュワー/田所次郎

いや~おもしろかった。今年読んだエンターテイメント小説の中で、群を抜いたおもしろさであった。

「フロスト気質(かたぎ)」は「クリスマスのフロスト」「フロスト日和」「夜のフロスト」に続いてシリーズ四作目だ。シリーズ第一作の「クリスマスのフロスト」を読んだのは、十数年前だったと思う。当時勤務していた赤坂にあったイグレグ書房(数年前閉店してしまったようだ)で何気なく購入したのがきっかけだった。それからこのシリーズはポツ、ポツと、忘れた頃に出版される。作者のR.D.ウィングフィールドが鬼籍に入ったことを伝え聞き、もうシリーズを読むことはないと諦めていた。
だから、新刊コーナーに平積みされている「フロスト気質」上下巻を発見したとき、まず、うれしさよりもなつかしさが先に立った。

今回のフロスト、登場の仕方がいい。休暇中のデントン警察のフロスト警部はマレット署長の部屋に置いてある煙草をくすねに署に立ち寄ったところ、折からの誘拐事件に巻き込まれて、そのまま事件を担当するはめに陥る。いかにもみみっちいフロストらしい現れ方だ。

以前、刑事コロンボシリーズというテレビ番組があったが、コロンボはよれよれのレインコートを羽織って風采の上がらないふりをしながら、それは犯人を欺く仮の姿というキャラであった。
フロストも実は、と言いたいところだが、小汚いただの中年の警部に過ぎないのだ。いつから首に巻いているのかわからないような薄汚れたマフラーで、フィッシュ&チップスをつまんだ指を拭いてしまう。のべつまくなしに煙草の灰を落としてしまう。

しかもフロストは卑猥だ。隣に婦人警官がいても「ちん○こ」を連発(本書では伏せ字になっていません!)。フロストが同僚のバートン刑事との打ち合わせでしゃべった台詞。「事件当夜のアリバイは、根底から覆されて、今やけつの穴まで丸見えになっちまったというわけだな」(下巻177ページ)。こんな会話ばっかり。女王陛下のお国の、刑事の描き方として、ありうべからざるキャラではないかと思うわけだ。
余談だが、以前CS放送のミステリチャンネルでフロストシリーズを見たことがあるが、原作よりずいぶん上品な作品となっていた。

だが単なる下品で粗野な中年刑事が主人公というだけの小説ならば、こんなに多くの人に読まれることはなかっただろう。
一見フロストのいい加減なキャラに苦笑させながらも、実はこのシリーズは土台にしっかりとしたプロットを構築している。事件解決までに必ずどんでん返しがあり、意外な伏線が用意されている。これが見事だ。主人公をシリアスな探偵というキャラに置き換えても十分読み応えあるに作品に仕上がること請け合いだ。

「フロスト気質」では、少年の誘拐事件を皮切りに、少女誘拐事件、母子四人殺人事件、そして石炭貯蔵庫殺人事件と事件がこれでもか、これでもかというぐらいに起こっていく。そしてどの事件にも、我がフロスト警部は中途半端に関わって、にっちもさっちもいかない状態に陥っていく。その反動で酔っぱらい運転の末、交通事故まで引き起こしてしまう。が、そこはフロスト警部。持ち前の悪運の強さを発揮して事故をうまくごまかし、スッポンのようなしぶとさで事件に食らいついていく。天敵マレット署長の叱責や、ジコチューでフロストを毛嫌いするジム・キャシディ警部代行の皮肉にもめげず。
そして最後には勝利の美酒に酔うことになるのだが。けっしてかっこ良い終わり方にはならない。これもいつものパターンだ。

このシリーズを初めて読む方は、やはり第一作の「クリスマスのフロスト」から読み始めてほしい。というのは、第一作から四作まで、ストーリー上の関連はほとんどないのだが、フロストのキャラが微妙に変化しているような気がするからだ。
巻末の荻原浩氏の解説によると、作者のR.D.ウィングフィールド氏がすでに亡くなった今、残された長編はあと二作だけだそうだ。次の翻訳が待たれるやら待たれないやら。複雑な心境だ。

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