おすすめ本書評を満載 オンライン・ブックストア Book Japan

 
 
 
トップページ > おすすめ本書評一覧 > アフリカの日々

アフリカの日々

愛か、搾取か、搾取のなかに息づく愛か?

イサク・ディネセン横山貞子
河出書房新社池澤夏樹 個人編集 世界文学全集 第1集小説] 海外
2008.06  版型:B6
>>書籍情報のページへ
レビュワー/朱雀正道

イギリス人がケニヤに鉄道を敷いてからというもの、ヨーロッパ人の入植者がやって来て、原住民から土地を取り上げ、原住民を大量につかって、コーヒー園をはじめた。入植白人の多くは貴族であり、農園は多くの黒人労働者たちに働かせ、自分たちは猛獣狩りに熱を上げた。そんな時代のはなしである、したがってディネセンの『アフリカの日々』(1937年)を読むことは、なかなかどうして、読者の知性が試される過酷な体験である。なるほどディネセンの散文からは〈アフリカを賛美する善意の白人農園主〉という著者像が浮かんではくる。とはいえいかに彼女に原住民への賛美と善意があろうともそれらはまた搾取や差別と渾然一体になっていて、容易にはほどけない。現代の読者は、どう反応したらいいのか判断を保留にしたまま、この美しくも不穏な散文を追いかけてゆくことになる。

この作品は、帝国主義と性的ファンタズムの交差する地平で書かれているようにおもえてならない。順を追って考察してゆこう。おはなしはこんなふうにはじまる、「私はアフリカに農園を持っていた。ンゴング丘陵のふもとに。この高地の百マイル北を赤道が横切り、農園は海抜六千フィートを越える位置にあった。昼間は太陽の近くまで高く登ったような気がするが、明けがたと夕暮れは涼しくやすらかで、そして夜は冷えびえとしていた。」
そしてディネセンの散文は語りはじめる、「すべてが焼け乾いていて、素焼きのやきものの色をしている、木々は薄く繊細な葉をつけ、枝のつくるかたちは水平にいくつもの層をなす、孤立して生えている木は、こうした形のせいで、いくつもの掌をひろげているように見え、帆を広げた船のように勇ましくロマンティックに見える」・・・。彼女はアフリカの空気を賛美し、雲を褒め称え、蜃気楼を愛で、そしてその賞賛の段落を締めくくるにあたって次のような言葉を記す、「この高地で朝、目がさめてまず心にうかぶこと、それは、この地こそ自分の居る場所なのだというよろこびである。」.

この地こそ自分の居る場所なのだ! 著者は審美的発言として書いているつもりだろう、ただしそれを読む現在の読者はそこに、入植者の不遜をも聞き取るほかない。

「私は六千エーカーの土地をもっていたので、コーヒー園以外にかなり空き地があった。農園の一部は自然林で、一千エーカーほどが借地、いわゆるシャンバになっていた。借地人は土地の人で、白人の農園の中で何エーカーかを家族ともども耕作し、借地賃代わりに、年に何日か農園主のために働く。私のところの借地人たちはこの関係について別の見方をしていたと思う。彼らのほうでは私のことを、自分たちの領地に寄生する上流借地人と見なしていたふしがある。」
読者はおもうに違いない、ふしがあるもなにも、著者は文字通りかれらの領地に寄生している。しかしこの恬淡として恥じるところのない堂々たる態度こそが、植民地時代の白人の時代精神なのだろう。

彼女が雇ったカマンテという料理人についての描写にもすごいものがある。カマンテは大変な数にのぼる料理法をそらでおぼえていて、カマンテは英語が理解できないので、ディネセンがすべて一回教える、それをカマンテはその料理を覚えた日の出来事に結びつけて覚える、「木に雷が落ちたソース」とか、「灰色の馬が死んだソース」という具合に。かわいらしいエピソードであり、またディネセンはカマンテの料理人としての才を賛美してやまない、ただしこんなコメントつきなのである。「カマンテは焼き芋とか羊の脂身のかたまりといったキクユ族のごちそうを食べさせようとする。長く人間と生活をともにしてその暮らしに同化した犬でも、骨をくわえてきて人間に贈ろうとするではないか。」

と同時にディネセンは、熱心な教育者でもあって、たとえば農園の現地人たちのために夜学をひらき、読み書きを、ABCを教えもするのだ。もっとも彼女の母国デンマークでも庶民の識字率がたかまったのはたかだか百年まえなのだ、(と彼女はおもう)。彼女にとってケニアの現地人に読み書きを教えてゆくことは、彼女の精神生活の支柱であったという。また彼女は、土地の人のために『イソップ物語』をスワヒリ語に翻訳しさえするのだ、出版にはいたらなかったそうだけれど。

boopleで検索する

お探しの書籍が見つからない場合は、boopleの検索もご利用ください。Book Japan経由でのご購入の場合、Book Japanポイントをプラスしたboopleポイントを付与させていただきます。

booplesearch   

注目の新刊

Sex
石田衣良
>>詳細を見る
失恋延長戦
山本幸久
>>詳細を見る
自白─刑事・土門功太朗
乃南アサ
>>詳細を見る
ガモウ戦記
西木正明
>>詳細を見る
怨み返し
弐藤水流
>>詳細を見る
闇の中に光を見いだす─貧困・自殺の現場から
清水康之湯浅誠
>>詳細を見る
すっぴん魂大全紅饅頭
室井滋
>>詳細を見る
すっぴん魂大全白饅頭
室井滋
>>詳細を見る
TRUCK & TROLL
森博嗣
>>詳細を見る
猫の目散歩
浅生ハルミン
>>詳細を見る
さすらう者たち
イーユン・リー
>>詳細を見る
猿の詩集 上
丸山健二
>>詳細を見る
ポルト・リガトの館
横尾忠則
>>詳細を見る
ボブ・ディランのルーツ・ミュージック
鈴木カツ
>>詳細を見る
カイエ・ソバージュ
中沢新一
>>詳細を見る
銀河に口笛
朱川湊人
>>詳細を見る
コトリトマラズ
栗田有起
>>詳細を見る
麗しき花実
乙川優三郎
>>詳細を見る
血戦
楡周平
>>詳細を見る
たかが服、されど服─ヨウジヤマモト論
鷲田清一
>>詳細を見る
冥談
京極夏彦
>>詳細を見る
落語を聴くなら古今亭志ん朝を聴こう
浜美雪
>>詳細を見る
落語を聴くなら春風亭昇太を聴こう
松田健次
>>詳細を見る
南の子供が夜いくところ
恒川光太郎
>>詳細を見る
星が吸う水
村田沙耶香
>>詳細を見る
コロヨシ!!
三崎亜記
>>詳細を見る
虚国
香納諒一
>>詳細を見る
螺旋
サンティアーゴ・パハーレス
>>詳細を見る
酒中日記
坪内祐三
>>詳細を見る
天国は水割りの味がする─東京スナック魅酒乱
都築響一
>>詳細を見る
水車館の殺人
綾辻行人
>>詳細を見る
美空ひばり 歌は海を越えて
平岡正明
>>詳細を見る
穴のあいたバケツ
甘糟りり子
>>詳細を見る
ケルベロス鋼鉄の猟犬
押井守
>>詳細を見る
白い花と鳥たちの祈り
河原千恵子
>>詳細を見る
エドナ・ウェブスターへの贈り物
リチャード・ブローティガン
>>詳細を見る
人は愛するに足り、真心は信ずるに足る
中村哲澤地久枝
>>詳細を見る
この世は二人組ではできあがらない
山崎ナオコーラ
>>詳細を見る
ナニカアル
桐野夏生
>>詳細を見る
逆に14歳
前田司郎
>>詳細を見る
地上で最も巨大な死骸
飯塚朝美
>>詳細を見る
考えない人
宮沢章夫
>>詳細を見る
シンメトリーの地図帳
マーカス・デュ・ソートイ
>>詳細を見る
身体の文学史
養老孟司
>>詳細を見る
岸辺の旅
湯本香樹実
>>詳細を見る
蝦蟇倉市事件 2
秋月涼介、著 米澤穂信など
>>詳細を見る
うさぎ幻化行
北森鴻
>>詳細を見る

おすすめ本書評・新着情報

【RSS配信】http://www.bookjapan.jp/whatsnew.rdf
RSSリーダーにURLを登録すると、ブックジャパンの更新情報を購読することができます。

3/12[読者投稿書評
坂本龍馬暗殺事件覚え書土屋雄嗣 投稿者/ドクロ岩さん
3/10[ウィークリー最新ランキング]
島田裕巳『葬式は、要らない』ついにトップ―新書・ノベルス売上ランキング
3/9[ウィークリー最新ランキング]
『食堂かたつむり』トップ2週目―文庫売上ランキング
3/8[ウィークリー最新ランキング]
内田康夫『教室の亡霊』が第2位へ浮上―文芸書売上ランキング
3/3[ウィークリー最新ランキング]
『葬式は、要らない』が第2位に急上昇―新書・ノベルス売上ランキング
3/2[読者投稿書評
Heart Prints ~命の花~川満ダグラス哀行 投稿者/Oriwaさん
3/2[ウィークリー最新ランキング]
『サヨナライツカ』に替わって『食堂かたつむり』が初のトップ―文庫売上ランキング
3/1[お知らせ]
おすすめ本書評の新規掲載はしばらく休止させていただきます。
3/1[ウィークリー最新ランキング]
『カッコウの卵は誰のもの』トップ3週目、『教室の亡霊』トップ10入り―文芸書売上ランキング
2/19[杉江松恋 Friday新刊チェック
ラガド─煉獄の教室両角長彦 / 『四十九日のレシピ伊吹有喜 / 『T・S・スピヴェット君傑作集ライフ・ラーセン
2/25[堀和世 書評&エッセイ
おれ、今日は(も!)長いよ

邪悪なものの鎮め方内田樹
2/24[おすすめ本書評
グリニッチヴィレッジの青春スージー・ロトロ レビュワー/山崎まどか
2/24[ウィークリー最新ランキング]
『カッコウの卵は誰のもの』トップ2週目、西尾維新続々―文芸書売上ランキング
2/23[おすすめ本書評
ベルリン・コンスピラシーマイケル・バー=ゾウハー レビュワー/酒井貞道
2/23[ウィークリー最新ランキング]
『葬式は、要らない』がトップ50へ新登場、驚きの第9位―新書・ノベルス売上ランキング
2/22[山本善行 この文庫を見逃すな
東京オブジェ─人と歴史をさがしに』著 大川渉
2/22[ウィークリー最新ランキング]
『サヨナライツカ』トップ2週目、次いで『食堂かたつむり』―文庫売上ランキング
2/19[末國善己 Friday新刊チェック
絵伝の果て早瀬乱 / 『もいちどあなたにあいたいな新井素子 / 『悦楽王団鬼六
2/18[おすすめ本書評
中谷宇吉郎 レビュワー/友部正人
2/18[B.J.ピックアップ
『ボート』ナム・リー
2/18[ウィークリー最新ランキング]
『カッコウの卵は誰のもの』ついにトップ―文芸書売上ランキング
2/17[北條一浩 復刊イチオシレコメン本
巡航船/夜學生─杉山平一詩集杉山平一
2/17[ウィークリー最新ランキング]
『ルポ貧困大国アメリカ 2』さらに上昇、第4位―新書・ノベルス売上ランキング

Internet Explorerをご利用の場合はバージョン6以上でご覧ください。
お知らせイベントBook Japanについてプライバシーポリシー広告掲載について出版社・著者のみなさまへお問い合わせ
copyright © bookjapan.jp All Rights Reserved.