私はずいぶん昔からこの著者のファンで、テレビやラジオに出てくると、その言葉に耳を傾けてきた。
いつも青年であり、言葉は哲学、行動はスポーツマン、俳人で詩人で陶芸家でもある。そういうことを全部ひっくるめてカメラマンである。
この本を走るように読み終えて「すっかり本を読まなくなった近年の青年に、この本をぜひ読ませたいな」と思った。
かつては、青年が思春期に読む本、青春時代に読んでおくべき本があった。教養の書というか、人生論というか、人間を考える哲学書などがあった。
自分を形成していくために、何をどう考えるか、自分なりに生きていくことを考えるにはどう考えればいいかのヒントをくれる本。若い日にそれを読んで、賛同したり反発したり、理解できずに放り投げたり。「わかったふりをして」友人に読みたての本の数行を抜いて口に出してみたり、であった。
昔の本は、生真面目すぎて私は辟易したものだが、さて、この本は語り口が軽快で抜群に心地よい。押しつけてくる感じはないし、それでいて「感じ取るべきことは」ぎっしり書かれている。すっかりおじさんになった私でも清々しい気持になる本であった。
まだ、柔軟な思いのある青年には、様々な意味で刺激になると思う。「柔軟な」思いがないと駄目だけれどね。この本のタイトル通り「鈍感力」に対して、アンチでいて欲しいから若者一人ひとりに読ませたい。
これは「たぶん」だけれど、この本は最近の新書に多い聞き書きでまとめたスタイルの本だと思う。文章が「しゃべっている」からそう思ったのだけれど、この新書の文章の速度は今どきの若者向きだと思う。今どきの、本をほとんど読んだことがない青年に、一冊の本を読み通す楽しさをもたらしてくれるはず。こういうところがためになると部分を引用してしまうと、きっと「全・浅井愼平」ではなくなってしまう。だからまずは読み通して欲しい。
力みかえる必要はないがとにかく、考えなさい。といってくれている。
日々自分が関わること、目にすること、例えばテレビ画面の向こうで起きていることについて、なぜああなのかを様々な角度で考え、楽しみ、今日の結論を出し、明日それが変化してもいい、思いを巡らす大切さを教えてくれる。
ああ、そういう風に生きるものなのか、と納得させてくれる。
語り口がステキだし、スポーツでも、美術品でも、専門である写真でも、また酒でも、「こう見る、こう考える、こういう風に想像力を働かせる」という術を見せてくれる、それが洒落ていて、スッとしていて楽しい。
団塊の世代から見れば、一世代上の人だけれど、風貌だけでなく、物事をこなしていくセンスが若々しい。ああ、こういう感覚を失ってはいけないよな、としみじみ思わせてくれる本だ。
ベストセラーにならないで良かった、と、思っている。この本が良著であると認識されて、ジワジワ売れ続けることを期待しているから。爆発的に売れて、サッと消えるのではなくずっと読まれ続けて欲しい。
若くない人には「気持に冷たいシャワーを浴びる」ような本なので、悪くない。冷たい生ビール、あるいは「ホッピー」を一杯やる感じの新書。これでわかってくれるか。