ホッピーとは実によくできた飲み物で、大衆酒場にはなくてはならないものである。
今どきは大衆酒場風を装った居酒屋があちこちにできて、決まって「ホッピー」と書かれたオレンジ色の提灯を軒先に掲げるので、なじみのある人も増えてきた。あえて説明すれば、ホッピーとは麦芽を発酵させて造った飲料で、要はアルコールの入っていないビールみたいなものだ。これで焼酎(くせのない甲類が望ましい)を割って飲む。
ホッピーの何がいいかと言えば、自分の好みの濃さにアルコール度数を調整できることだ。酒場で「ホッピーひとつ!」と注文すると、大抵は褐色瓶(360ミリリットル入り)のホッピーと、あらかじめ氷を詰めたグラスに入った焼酎が運ばれてくる。グラスにホッピーをどのくらい注ぐかによって、めいめいの客が「マイホッピー」を楽しむことができる。こういう少しままごとめいたことが、酒飲みにとっては滅法面白い(それと正反対なのが安スナックでママが作る水割りで、杯を重ねるごとにウイスキーの濃さが増していく=度数逓増の法則。もちろん、客の酔いに乗じてボトルをお代わりさせる作戦だ)。
が、実はホッピー通に言わせれば、ホッピーに氷を入れるのは邪道、という。氷が溶けることで、せっかくの「バランス」が崩れるからだという。そこで、ホッピーと焼酎とグラスをそれぞれキンキンに冷やし(「3冷」というそうな)、客が卓上で好みの濃さに割り合わせるのをよしとする。この「王道」を貫く焼きとん居酒屋が東京の赤坂にあって、著者の小玉さんはそこの常連である。
小玉さんは赤坂にある広告制作会社のコピーライターで、「Book Japan」でもレビュアーとして活躍している。その小玉さんが若い同僚と一緒に居酒屋に行き、ホッピーを飲んだ。同僚はアルコールに弱い体質だったが、初めて体験したホッピーに感激した様子でこう言ったという。
「これはいいですね。酒の席ではずっとウーロン茶とかしか飲めなくて、肩身が狭かったのですが、これなら周りの人と一緒に楽しめますし、それに傍からはお酒を飲んでいるようにしか見えません」
飲める人もそうでない人も楽しめるのが、ホッピーの一番の魅力なのである(アルコール度数は0.8%なので、かすかに酔う)。
なんて話は、この本には載っていない。
では、なぜそういうことを私が知っているかというと、私が小玉さんの飲み友達だからだ。現在、私を含めて小玉さんと日ごろ交わる人たちの間で画策されているのが、「焼きとん屋貸し切り、ホッピー飲み放題」の大宴会開催だ。言うまでもないが、この本の「印税」を目当てにしているのである。
「ホッピーの飲み放題はいいとして、焼きとんの食べ放題はできませんか」
「そこまではどうかな。種類を限定すればできるかもしれないけどね」
「シロだけ食べ放題、カシラは実費とかですか」
「七味はかけ放題だから」
とかなんとか言い合っているのだが、せめてタン、ハツ、カシラくらいは懐を気にせず、思うさま食べたい。それはひとえに本の売れ行きに左右されるのであって、私が今回のレビューに、小玉さんが先ごろ(2008年4月初め)上梓した『ヒョー論。』を選んだのには、そういう事情がある。