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Book Japan 2008 ベストブック10&新人賞 トーク・セッション
in ジュンク堂書店・新宿店 2008年11月28日
【第一部】まずはベストブック10選外作品の見どころ・読みどころ編(3/5)

中島京子『平成大家族』/
豊島ミホ『リリイの籠』『花が咲く頃いた君と』

●吉田 そうです。それで、入らなかったのが、まず中島京子さんの『平成大家族』なんですけれども、これはどういう話かっていうと、平成の大家族の話(笑)。まぁ、いまどきの大家族なんで、引きこもりの子はいるは、出戻ってくる娘はいるはで、けっこうごっちゃごちゃなんですけれども、そのごっちゃごちゃした感じが、柔らかにリアルというか、家族ってこういうもんだよな、と楽しく読めたわけです。中島さんの『FUTON』(講談社文庫)とか『イトウの恋』(講談社文庫)あたりが好きな方は、あんまりこれを評価されてないんですよね。『ツアー1989』(集英社)とかが好きな方は、『平成大家族』はちょっと物足りなかった、中島京子さんのいつものテイストが感じられなかった、っていうんですね。でも、私は逆にこういう普遍的なテーマで書いていながらも、ところどころに中島京子さんならではの視点とか、くすぐりとかがちゃんと入っていて、そこらへんがいいなぁ、と。
●豊崎 サザエさんが好きな人とか、いいよね。
(会場 笑)
●吉田 う~ん、それはどうかなぁ(笑)。
●豊崎 中島さんは『FUTON』とか『イトウの恋』とかの、先行作品を下敷きにした換骨奪胎小説で名を成してきた人だけれども、これを読むと器用なんだなと思いますね。すごく良質なユーモア小説であって、ファミリーポートレート小説でもある。私は『イトウの恋』とか、あっち方向も好きだけれども、こういうのも好きですよ。
●吉田 でもね、『FUTON』や『イトウの恋』を支持する人のほうが多いんですよ。「軽い感じがイヤ」とか。
●豊崎 ちょっと類型的なところがあるからかなあ……。ただ中島さんも、いまは部数で勝負しなきゃいけないところにきている(笑)。それで、狙って書いたっていうところもあるんじゃないかな。まあ、たとえそういう事情で書かれたんだとしても、これはかなり楽しい小説だと思いますよ。
●吉田 うん、いいですよね。まだ読んでない方はお正月休みにどうぞ(笑)。
●豊崎 ああ、いいですねえ、お正月に家族で朗読したらいいんじゃないの。
(会場 笑)
●吉田 朗読はちょっと(笑)。
あともう一冊選に漏れたのを紹介しますね。豊島ミホさんの『リリイの籠』です。じつは、これを選んだ後で彼女の休筆宣言がでてしまったので、今日は1位も2位も全部下げて、これを1位に推すっていうクーデター起こそうかなあと一瞬思ってました(笑)。
「小説新潮」に載った彼女の休筆宣言を読むと、豊島ミホさんってすごく真面目な方なんだなと改めて思いました。その真面目さが、作品に対する試行錯誤にも表われていて、その軌跡が去年までの彼女の作品群には見られました。でも、この『リリイの籠』で彼女なりのある種の鉱脈を見つけたんじゃないかなって気がします。隣に座っている藤田香織ちゃんが挙げてくれた『リリイの籠』以降の『花が咲く頃いた君と』も『カウントダウンノベルズ』(集英社)も全部良くて、じつはどれを挙げても良かったんですが、これが多分彼女のターニングポイントだろうという意味で、あえてこれを挙げました。
●豊崎 ほかに理由は?
●吉田 女の子同士の関係って難しいけど、ある種特別な感じがあるからかな(笑)。男の子が読んだらどうかなっていうところはあるんですけれども、女の子同士の微妙な距離とか、友達なんだけれども意地悪な感じとか、そういう思春期の女の子たちの自分のもて余し加減というのがすごくよくでている短編集なんですよ。
●豊崎 はい、わかりました。じゃあ次は藤田さん。
●藤田 じゃあ、ミホたんの――あ、すいません豊島ミホさんのことです。どうも豊島さんは「ミホたん」って呼びたくなるんですよ。勝手に。一方的に。断りもなく(笑)。
●豊崎 うん、ミホたんのから紹介していきましょうよ。
●藤田 豊島ミホさんの、『花が咲く頃いた君と』。これも短編集で、四季折々の花を題材にした青春小説なんですけれども、豊島さんは地味系青春小説を書かせたら本当に天下一品の作家さんだと個人的に思っているんです。みんなが忘れてるつもりで、だけど忘れ切れなくて心の片隅にもち続けている思いみたいなものをとても巧く言葉に置きかえる。で、異常に記憶力が良い上に、所謂キラキラ派手系な青春時代を過ごしていた人にはちょっと書けない視点を持ってる。それでいて卑屈でも暗いわけでもなくて、なんというか、非常に等身大なんですね。ステキじゃないところが素敵(笑)。この話もやっぱり地味系青春を送っている子たちの話で、とくに最終話の桜を題材にした「僕と桜と五つの春」は格別。
読書の一つの楽しみとして、私は逃避っていうのがあると思うんですけれど、豊島さんの青春小説は自分がもう戻りたくても戻れないころに、すっと気持ちをもって行ってくれるというところがいい。まぁしばらく休筆されるということですけれども、それはそれとして、唯一、今回二人から推挙された作家さんなわけで、そういう意味でも読んだことのないという方は一度どの作品でもいいので手に取って欲しいなって思います。
●吉田 いずれにしても、地味系のお話なので、きっと、青春のど真ん中を歩いてきたわ、スポットライトをいつも浴びてきたわっていう人は楽しめないかも知れないよね。
●藤田 いや、私、わりとど真ん中歩いてきたけど、いつも楽しいですよ。
●吉田 あ、そう?
(会場 笑)
●豊崎 ええーっ、香織ちゃん、そうなのお? 友達いなくて昼休みは一人で図書館行ってたっていってたじゃん。
●藤田 だからその後、反動が大きかったんですよ!
●吉田 じゃぁ、今日はその話をじっくりと(笑)。

吉田伸子

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