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Book Japan 2008 ベストブック10&新人賞 トーク・セッション
in ジュンク堂書店・新宿店 2008年11月28日
【第三部】新人賞選定バトル(1/5)

天野純希『桃山ビート・トライブ』/
和田竜『のぼうの城』/
中田永一『百瀬、こっちを向いて』

●豊崎 最後は新人賞の選定です。もう時間あんまりないので、マキでお願いしますね。みなさんが推した新人賞候補は、こうなっていますね。杉江さんが立川談春の『赤めだか』、三浦さんが真藤順丈の『地図男』、吉田さんが和田竜の『のぼうの城』、藤田さんが中田永一の『百瀬、こっちを向いて』、末國さんが天野純希の『桃山ビート・トライブ』……。はい、じゃあ、戦ってください。ファイト!
●杉江 私は『桃山ビート・トライブ』(天野純希)以外だったら、新人賞はどれでもいいです。
(会場 笑)
●豊崎 理由は?
●杉江 へたくそだから。
●末國 それは認めます。
●杉江 要するに桃山時代を舞台にして、現代のバンド小説をしてるわけでしょ?その趣向は認めるんですけれども、小説としてはへたくそ。新人の中の新人として挙げるには躊躇します。
●末國 確かに視点がどんどん変わるので読みにくい。でも発想のおもしろさは評価しています。
●杉江 同種のものなら、筒井康隆の『ジャズ大名』(新潮文庫『エロチック街道』などに収録)があるじゃないですか。
●末國 この話が面白いのは、バンドを組むメンバーを通して、さっき杉江さんがいった、プリレタリアート問題を描いているところ(笑)、そこは評価してもよいのではないかと。私は、『のぼうの城』(和田竜)をだれかが推すと思ったんで、対抗馬としてとりあえずだそうかなと思って。
●吉田 …………(怒)
●杉江 あ、怒ってる怒ってる。それは『桃山ビート・トライブ』のほうが『のぼうの城』より上ってことですか?
●末國 『のぼうの城』は直球すぎて、発想の面白さがなかった。
●豊崎 あのさ、『のぼうの城』の映画の主人公はあれにやらせるといいよね、電気グルーブのピエール瀧(笑)。
●藤田 ピエール瀧!(笑)。まんまだ。
●吉田 私ね、『桃山ビート・トライブ』は時代小説で、『のぼうの城』は歴史小説だと思うんですよ。なので、単純に比較は出来ないと思う。
●豊崎 歴史小説っていうほど、文章に深みがない。『のぼうの城』って漫画の原作っぽいと感じるんですよ。話はすごくおもしろかったし、キャラクタライゼーションも素晴らしいと思うけれども、まあ、所詮エンタメの下っ端? そんな印象だなあ、私は読んで。
●吉田 んー、でもね、時代小説には新しい書き手がどんどんでてきているんだけれども、歴史小説の分野にはあんまりいないんだよね、じつは。つまり、正史を基にして書かれた歴史小説、稗史(はいし)を基にして書かれた時代小説って分かれるんですけれども、前者を書く新しい人がいない。そんななかで和田竜を読んだときに、いま私は新しい才能を読んでいるんだなあという感じがして、すごく興奮したんですよ。うれしかった。
●豊崎 ああ、そういう新人の推し方っていうのはいいですね。ありですわね。
●吉田 うん、歴史小説の新しい書き手がでてきたっていうのはすごく評価したいので、だから、今日の新人賞、楽勝じゃんって思ってきたんだけど……だめ?
●杉江 話としては素直におもしろかったですよ、これ。
●豊崎 話は変わるけど、一つ謎なのがさ、『百瀬、こっちを向いて』(中田永一)を推した人がいること。
●藤田 え、だってさあ、(本を手に取って)これ、もう帯変わっちゃったんですけれども、前は大型新人登場って書いてあったんですよ。
●豊崎 ああー、はいはい、版元ウソツキだよねー。
●藤田 版元が、大型新人だっていってるんだから、新人でいいじゃない。
●吉田 でも、版元はもう認めたんでしょ、百瀬イコールほにゃららだって。
●藤田 公には認めてないでしょう。
●三浦 いい話なのは認めるけど、さすがに新人賞は難しいんじゃないですか。
●吉田 4編収録されていて、どれもすごくいいんだけどね。
●藤田 シロ××(××は作家の名前です)まっしぐらですね。
●豊崎 ××って明かしちゃってるし(笑)。
●吉田 でも「小梅が通る」以外は、全部既存の本の再収録なんですよ。それをまたこうやって一冊にまとめるその根性が嫌い。
●藤田 そんなの発表媒体があったんだから仕方ないじゃない!
●豊崎 いまシロ××っていったでしょ。私はそれがイヤだな。やっぱりシロ××じゃなくて、××はクロ××がいいんですよ。シロ××は、クロ××のだし汁、搾りカスなんです。カスなんですよ、搾りカスなんですよ、これは(笑)。
●杉江 ただ××さんは、小説の作法としては、『ハリウッド脚本術』(フィルムアート社)みたいな基本の教科書を参考にして、ちゃんと山場をつくっていくというエンターテインメントの基本どおりに書いているんですよ。だからクロもシロもなくて、基本的に伏線を織り込んで書くとか、持ち出したピストルは必ず撃つとか、そういう書き方をしているんです。しっかりしたエンターテインメントの常道を行く作品でしょう。これが本当に新人ででてきたら、超新星と呼ばれると思います。
●藤田 だから、正体を知らなくて読んでも、絶対すっごいおもしろい。
●三浦 新人じゃなくてベスト10に入れてくればよかったのに、これ。
●末國 『タチコギ』と入れ替え……。
●藤田 いや、『タチコギ』の方がいい!
(会場 爆笑)
●藤田 それは譲れないのっ。
●豊崎 しょうがないよね、好きなんだもんね、ミワが。
●藤田 ミワじゃないっ、ミ・ツ・バ!
●吉田 まぁ、「小梅が通る」は、これでしか読めないわけで、しかもその「小梅が通る」が凄くいいので、それだけでも読む価値はあるけれどね。

豊崎由美 司会:豊崎 由美 末國善己
吉田伸子

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