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Book Japan 2008 ベストブック10&新人賞 トーク・セッション
in ジュンク堂書店・新宿店 2008年11月28日
【第一部】まずはベストブック10選外作品の見どころ・読みどころ編(4/5)

仙川環『聖母ホストマザー』/ 山本幸久『ある日、アヒルバス』

●藤田 話もどしましょうか(笑)。
えっと、ふと気づいたらですね、みなさんの1位と2位の推挙はベスト10に残っているのに、私の1位だけ、置き去り? みたいな感じになっています(笑)。仙川環さんの『聖母 ホストマザー』という、代理出産をテーマにしたサスペンス系の長編小説です。
正直いうと代理出産って、私自身まったく興味がないというか、関心がないというか、どうでもいいと思っていた。お金持ちと芸能人がやることね、という感じで、自分には縁のないものだと思っていたんです。けれども、これを読んで、代理出産ということに関して本当に私はなにも知らなかったんだなあということがわかってしまった。で、なにより代理出産って、その当事者夫婦だけの問題ではなくて、親をはじめとした家族の問題でもあるんだ、ということに気づかされたことがとても大きかったです。
●豊崎 そんなの高田総統の嫁の本読めばわかるんじゃないの(編集部注:向井亜紀さんです)。
(会場 笑)
●藤田 でもあれはねぇ、やっぱりちょっと距離あるんですよ。
で、えっとですね、この小説、主人公はガンで子宮を摘出して子供がもうできないっていう女性なんですけれども、まず驚くのは、その55歳の母親がじゃあ私が代わりに生んであげるといいだすところなんです。どうしても子供を諦めきれない娘の思いを叶えてあげたくて、閉経してるけど体は丈夫だから私が代わりに産む、と。
でもそれはつまり、主人公の夫にしてみれば自分と妻の受精卵を義母の子宮に着床させてその胎内で育てるということで、主人公の父親にとっては55歳にもなった自分の妻のお腹が大きくなっていく、しかもそれは自分の子供じゃないという生理的な感情問題が残るんです。
さらにそこに、主人公の弟の妻つまり義妹も、小さな子供がふたりいる状況なのに「家族は助け合わなくちゃねぇ」なんて言われて、暗に代理母になるようにプレッシャーをかけられていく。もうその「他人事じゃない!」感が、凄まじくて。
ま、後半のサスペンス系の展開はどうかと思うところもあるんですけれども(笑)、総合的に当事者だけじゃない周りの思いっていうのがすごく丁寧に書かれていて、そんな、そうだったのか感が、私にはとても大きくなショックとなったんですね。
●杉江 仙川さんは、ミステリー的な仕掛けがどうしても弱いんだよね。なにも無理にミステリー仕立てにすることはないんですよ、この話だって。
●豊崎 そうなんだ。
●末國 これ実際の事件をモデルにしてますよね。そのわりに、けっこうチープ(笑)。新書を一冊読めばわかる話を延々書いていて、ミステリー的なオチにも驚きを感じませんでした。
●藤田 でも、そもそもノンフィクションの代理出産モノを読もうという人って限られていると思うんですよね。だから、エンターテイメントとして読ませることで、私みたいに代理出産にあんまり興味ないわと思っている人たちにも、そういうことの概要だけでも伝えることができるわけで。
●豊崎 そんな役割があるゆえに1位なの? 大事なのは小説としてどうなのかってことじゃないの?
●藤田 もちろん小説として面白いですよ。いろんな意味でびっくりしたし。
●末國 びっくりするところ何もなかったな(冷たく)。
●豊崎 末國さんやったことあるんだ、代理出産(笑)。
●末國 ありませんけど、普通にニュースとか見ていればわかることばかりじゃないですか。
●藤田 えー、それは単なる情報の問題じゃん。
●三浦 かなり、みんな意識しましたよね、この問題って。
●藤田 でもさ、高田夫妻は芸能人じゃん、所詮。お金もあるしさ、時間もあるし。
●三浦 でも、小説として成立しているかどうかっていうのは。
●豊崎 いいじゃん、これ以上の追求は。落ちたんだから。もう、いいよいいよ。
(会場 笑)
●藤田 ひどい(笑)。いやまぁ別に万人ウケするものじゃないのは解るからいいけど。
●末國 (藤田さんの)第1位なのに(ベスト10候補に)入らなかったのは、みんなの総意ですよ。
●豊崎 そうそう。みんなが嫌だっていったんだから。しょうがないですよ、それは。はい、次は?
●藤田 えぇ、最後は山本幸久さんの『ある日、アヒルバス』ですね。東京の観光バス会社に勤務するバスガイドが主人公のお仕事青春小説です。まあ、山本さんがこの手のお仕事小説であるのはみなさんとっくにご存知だとは思うんですが、『アヒルバス』はまさにそうした意味で、真骨頂であり、これまでの集大成ともいえる内容だと思います。軽快かつ愉快痛快、涙あり、挫折あり、葛藤あり、ついでに東京ガイド付きで、気楽に読めて得るものが多い。
●吉田 読むと、「ピノ」が食べたくなる。
●藤田 デビュー作の『笑う招き猫』(集英社文庫)でも主人公たちが唄う歌が結構話題になったけど、このアヒルバスの社歌も相当スゴイ(笑)。
●吉田 あぁ、山本さんは「歌」が好きだよね。 
●藤田 自分だったら絶対歌いたくないけど、それもなんか楽しかったりするんですよ。そもそも、お仕事小説って読めばやる気になるとか、自分の仕事について考え直すとか、そういうことをいわれがちですけど、これはエンターテイメントとしてとっても上質。小説ってがっつりしたものばっかり読みたいわけじゃなくて、ちょっとできた暇な時間に後味が悪くない、ちょっとモチベーションが上がる、読んでよかったなっていう小説を読みたいって思うときもあると思うんです。そういうときにすごくぴったりな作品だと思いますね。

藤田香織

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