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著書刊行100冊突破記念!!『濃縮四方田』
ザ・ベリーベスト・オブ・四方田犬彦

ゴダールの方に向くのではなく、ゴダールの側に廻れるんじゃないか

四方田 私の映画に対する姿勢は、80年代と今では、まったく正反対に変わっています。80年代には、ゴダール、ヴェンダース、ジャームッシュと、世界のいちばんトレンディーな人たちの映画を観て、それをロラン・バルトからドゥルーズからという最新理論でもってぶち当たれば最新のことがわかるんじゃないかということでやっていました。今は、理論なんかどうでもいい。ジャカルタやバンコクやプノンペンで、普通の下町の人が路上で売っている海賊版のDVDを観て、どんなものに一挙一動しているか、そういう事に関心があるわけです。いちばん後ろ側にいる人たちですね。ジャンル映画でしかない、監督の名前もない、あっても誰も気にしない、タイなんて税金逃れで名前が5つも6つもあって、タイトルもどんどん変わっちゃうとか(笑)、作家主義なんて成り立たないような芸術なんて誰も考えていないようなお化け映画とか、アクション映画、メロドラマ、そっちのほうがずっと面白いんです。
にもかかわらず、そういうB級C級映画を観る時に、ゴダールのような人が私にとっては道しるべになる。ゴダールは『映画史』の中で言っています。「すべての映画の中の怪物は政治的である」。怪物をマージナルマンとか差別されたものと言ってもいいけれども、ある社会の中で追放され、隠蔽され、差別されてきた人間はいやがおうにも政治的存在です。

―― ゴダールももちろんですが、ブニュエルですね。この両者についての四方田さんの本がいつ出るか、私もそうですが、読者は待ち望んでいると思います。

四方田 ゴダールとブニュエルはとにかく宿題です。ブニュエルは80年代からずっと、500枚くらい書いていますが、次々と新しい資料が発見されちゃったりして、なかなか終われないんです。いっぽうゴダールというのは、どんどん変わっていきますからね、なにしろカミさんが変わるたびに世界がガラッと変わっちゃう人だから、いま書いてもすぐに古びちゃう。ブニュエルはまあ、死んじゃったからいいけど(笑)。しかし、ゴダールが死んで、安心して書いた本はつまらないでしょうね。「この本は来年になったらもう古くなる」みたいなのがいちばん面白いです。今年これから出る怪奇映画の本(『怪奇映画天国アジア』、白水社から刊行予定)にも「2010年にはこの本がもう古びていることが理想だ」みたいなことを書きました。

昔はゴダールの新作を観る度に、ゴダールに面と向かっていたんです。「お前は誰だ?」という感じで。今はむしろ、ゴダールがやってきたこと、考えてきたことをずっと見てきた人間として、ゴダールの側に廻れるんじゃないかと思っています。ゴダールがこっちにいて、パレスチナを見たりコソボを見たりしている。『私たちの音楽』なんて、ちょうど私がボスニアとパレスチナから帰ってきた時に公開されて、なんだ、同じ所に行ってるじゃないかと。ピタッと合ってきた。ゴダールが行ったから行ってきたんじゃないんです。ゴダールが見ていたら、このことをどう考えるだろうな、という想像力でものを考えることができるようになりました。
ゴダールは、NHKで映画100年の番組をやる時にフィルムを借りたかったんですが、何回スタジオにメールやファクスを送っても一切返事をよこさない。勝手に使ってやろうかと言ったら、NHKの人がそれは困りますと(笑)。でもゴダールの『映画史』なんて版権無視して勝手にビデオつなぎ合わせて作っちゃったわけですからね。自分でやっておいて文句は言えないだろうと。まあ結局、配給会社が権利を持っている『勝手にしやがれ』だとか、ああいうものしか使えませんでしたが。
ゴダールがやったのはコピーライト(権利)ではなく、コピーレフトですね。映像における共産主義というか。すべての映像は誰も平等で自由に使えるということをやったと思います。

今お話したゴダールの場合と同じように、90年代には、「中上(健次)が生きていたら、このことについて何といっただろう?」と考えるクセが付いていました。中上について書き、全集を作り、シンポジウムをやり、もう中上のほうを向くのはいいだろう、これからは中上の側に立ってみることだと。アジアの中の日本映画という発想は、あきらかにそこから来ています。中上の『異族』とかね。「日本なんてone of themなんだ」と。

 

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