B.J.インタビュー vol.2 by Sugie McKoy 2008/11/17(株)角川書店にて
――飴村さんを満足させてくれるような作品は、それまでになかったですか。
飴村 先ほど話に出た遠藤徹さんの『姉飼』は、かなりそれに近かったですね。でも、エロの部分がちょっと足りなかった。だから『粘膜人間』では、エロの部分もぶちこみました。
――『姉飼』の姉はエロくないですからね。きしゃーって言ってますから(笑)。同じ遠藤さんでも『むかでろりん』(集英社)みたいな作品はいかがですか?
飴村 やはり『姉飼』の方が好きですね。絶望的なものや、救いのない話が好きなもので。中途半端じゃない、徹底した世界を作品で試してみたかったんです。だからそれを『粘膜人間』ではやらせてもらいました。
――これはたいへん失礼な言い方になってしまうのですが、『粘膜人間』には「中学生じみた残酷さ」を感じるんです。
飴村 ああ、言われることはよくわかります。
――もっと言うと「中学生が興奮して書いたエロ漫画」の感じですね。エロ漫画という言い方は、『粘膜人間』の場合は半分褒め言葉だと思いますが、失礼な表現に聞こえてしまったら申し訳ありません。でも、意図してそういう感じを出そうとした形跡があると私は感じました。
飴村 そうだと思います。そういうのが好きだったんです。
――みんな好きだろうけど、そういう悪い趣味は普通他人には言わないという。その手の嗜好ですよね。
飴村 実は、十代で西村寿行にドはまりしたんです。中三のときに『滅びの宴』(角川文庫・光文社文庫、現在はともに絶版)を読んで……。
――野鼠が異常発生するパニック小説ですね。
飴村 あれで、すごい衝撃を受けてはまりました。
――あれも、女の人がひどい目に遭う小説です。
飴村 そうです。情け容赦のない世界、絶望が好きなんです。
――『粘膜人間』にも、軍隊から脱走した人間がいる家の者に向って「非国民だから、あいつには何をしてもいいんだ」と言い出す登場人物が出てきます。非常に残酷で、救いがない人間観です。でも現実に生きている人間というのは、そういうものだと思うんですね。だから書くのに勇気はいるけど、誰かが書いたほうがいいことです。そういう残酷な人生の側面を敢えて書くという、ポリシーをお持ちなのかな、と思いました。
飴村 ポリシーっちゅうか、とにかく自分が読みたいものを書くという感覚です。
――ポリシーじゃなくて、リビドーですか(笑)。
飴村 そうです。
――そう言われてみると、どの登場人物もリビドー剥き出しですよね。(また朗読する)「最初の性交は後背位でやると決めていた」――なんですか、この台詞は(笑)。これも西村寿行イズムですよねえ。
飴村 そうですね。かなり影響を受けています。
――西村寿行という名前を聞いて、非常に納得がいきました。ちなみに漫画作品はどういうものがお好きだったんですか?
飴村 丸尾末広さんとか、ねこぢるさん(故人)とかですね。青林堂の「ガロ」なんです。あの辺の世界が非常に好きです。
――山野一さんなんかもお好きでしょう。
飴村 はい、大好きですね。『四丁目の夕日』(現・扶桑社文庫)とか。
――私、『粘膜人間』は表現だけではなくて、話の運びが非常におもしろいと思うんです。過去の落選作品と比べて、そういう面で進歩したというような自覚はおありですか?
飴村 はい。あるとき、ハリウッド映画を観ていて気がついたんです。誰かが何かをやろうとすると、必ず障害が起きるでしょう。そのせいで、最初思っていたのとは違うところに話が着地することになる。それまでは何も考えずぼうっと映画を観ていたんですけど、「これだ!」と思って自分の小説にも取り入れました。
――『粘膜人間』は、ハリウッドの技法を取り入れている! いい話だなあ(笑)。グチョグチョの物語ですけど、話運びは完全にエンタテインメントの世界ですよね。これ、話が娯楽小説の常道を無視していると、きっともっと気持ち悪い感じが増幅したと思うんです。
飴村 そうでしょうね。
――たぶん、これからの飴村さんには選択肢が二つあるんですよ。もっとグロさを追求するか、それとも話をおもしろくするほうに向かうか……。
飴村 (即答)エンタテインメントですね。
――グチョグチョとしたエンタメ、グチョエンタですか。
飴村 書いているときはいつも、読んでくれる人が退屈しないかなと考えてしまうんです。だからこういう話の流れになる。
――サービスカットが満載ですもんね。『粘膜人間』を読んでいると、何もなくて退屈だな、と感じる箇所が一つもない。始終いろんなことが起きてグチョグチョしています。
飴村 それは意識しています。
――最初にお話したように、私はこの小説を短期間で読み返したのですけど、そうしたくなったのには理由があると思うのです。場面を拾い読みしておもしろいですから。あそこはどうだったっけ、どんな描写だったかな、と気になって、ついページを繰ってしまう。非常に読者に奉仕していますよね。楽しんでもらおうという作者の意識が、よく伝わってきます。
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