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第15回日本ホラー小説大賞長編賞受賞
選考会史上、異例の物議を醸した衝撃のグチョエンタ作品、飴村行『粘膜人間』

最後と決めていた四回目にして、自分でも読みたかった快心作が完成

――すでに授賞式も終わって、いろいろな方から感想を聞いていると思うんですけど、印象に残ったものはありますか?

飴村 短編賞を受賞した田辺青蛙さんが、すごく気に入ってくれたんですよ、河童三兄弟を。髑髏も好きだと言ってくださいました。

――髑髏はどうかと思いますが(笑)、たしかに河童は可愛いですね。特に長男のモモ太がね、発言がバカでいいじゃないですか。口癖が「クソ漏れるぐらいおっかねぇ」ですもの。

飴村 みなさんなぜかそう言ってくださるんですよ。

――読んでいると頭の中で可愛い河童の映像が浮かびます。実際にはグロテスクな化け物なんですしょうけど。河童を出したのは、日本の日常風景を非日常の世界に結びつける、マジックリアリズムの手法を意識したものでしょうか?

飴村 最初から人じゃないものを出すというプランはあったんですけど、河童にする予定はなかったんです。夢でたまたま河童の生首を見て、これなら使えるかなと思いましたね。

――言動がまったく人間らしくないから、非常に妖怪らしいですね。そこがたいへんにいいです。これまで飴村さんは三回ホラー小説大賞に挑戦してきたそうですが、過去の作品はこういうグチョグチョ系ではなかったのですか?

飴村 ぜんぜん違います。私は歯科大に通っていたんですが、途中で辞めて漫画を描き始めました。ちょうど吉田戦車さんが爆発的に売れ始めたころで、自分も不条理ギャグを四コマで描いて、出版社に持ち込んでいました。十社ぐらいは回ったのかな。全部没です。青林堂の「ガロ」が好きだったんで持ち込みましたが、それも含めて全部だめでしたね。そういう生活を一年ぐらい続けた後で止めて、以降は脚本を書いていました。フジテレビや日本テレビの脚本賞にずっと出していたんですが、まったくだめで。そのうちお金がなくなって、大学を辞めて四年目ぐらいからは、ずっと仕事中心の生活だったんですよ。そうこうするうちに、十年経ってしまいました。そのときに父親が死んで、兄から実家に帰るよう言われたんです。

――人生の転機というか、たいへんな節目を迎えてしまったわけですね。

飴村 兄に、これからどうするんだ、と言われたとき、そういえばまだ小説は書いてなかったなと思いついたんです。そこで小説を書いてみたいと言ったら、もう一度大学に入ったつもりで四年間がんばってみろ、それでも駄目なら諦めて就職しろと言われました。そこから小説を書き始めて……今年で四年目だったんです。

――ぎりぎりで間に合ったんですね。過去三年間に書かれていたのは、どういう作品でしたか?

飴村 全部ホラーです。というより日本ホラー小説大賞一本で四年間やってきました。昔からホラーが好きでしたから、それだけに絞って。応募していたのは全部長編です。

――それは今の飴村さんから見て、どういう作品でしたか?

飴村 平凡ですね、簡単に言っちゃうと。本当に誰でも考えつけるような、いわゆる普通のホラーでした。三回目までは、とにかく賞が欲しかったんですよ。受賞してデビュー、受賞してデビューって、そればかり考えていたんですけど、三回とも一次予選で落ちて、さすがにこれはまずいな、と思いました。今年で最後ですから、開き直ってとにかく自分が読みたかったものを書こうと決意したんですね。そうしたら、『粘膜人間』が出来ました。

――『粘膜人間』が(笑)。やっぱりこういうものが読みたかったんですね。

飴村 すごく読みたかったです。

photo by ピクチャーコレクション・熊倉徳志

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