B.J.インタビュー vol.2 by Sugie McKoy 2008/11/17(株)角川書店にて
――そうですか。夢といえば、第二章で出てくる髑髏(どくろ)という拷問が画期的ですよね。夢の中で自分が殺される場面を仮想体験するという、とっても嫌な拷問ですが、これはホラー小説史に残る発明だと思います。いくら小説とはいえ、自分の肛門が花びら状に切り裂かれる感覚や、串刺しの切っ先が小腸を突き破って上がってくる感覚なんて、なかなか体験できないですよ。いや体験したくはないですけどね(笑)。ここは、書いていて楽しかったでしょう。
飴村 その前に出てくる水責めの場面で、小説全体の残酷さのレベルが高くなってしまったんですよ。ハードルが上がったから、それを超えないと読んでいる人は納得しないと思ったんです。最初考えていたのは、映画「時計じかけのオレンジ」に出てくるアレックスの拷問場面でした。
――異常な映像や音楽をずっと流して感覚をおかしくさせるというやつですね。
飴村 でも、どうもしっくりしない。書いている間、二日ぐらいずっと悩んでいました。そこで思い出したのが、子供の頃父から聞いた話だったんです。人間というのは、串刺しになっても即死はしないで2日ぐらい生きているそうなんです。
――どうしてそんなことを知っているんですか! おかしいよ、お父さん(笑)。
飴村 (笑)それを思い出して、幻覚というか夢を見せればいいのかな、と。夢は見ている間はずっと現実のように感じますから。あの感覚で行こうかと。
――おかげで、とてつもなく嫌な場面ができてしまいましたね。読者のためにここは伏せますが、その前の「蕎麦が出たぞ」というのも嫌でしたよ、私は。拷問の前に、相手に蕎麦を食わせるんですよね。なんで食わせるのかな、と思っていたら……(絶句)。
飴村 ありがとうございます。
――こう言ったらなんですが、今そこにいる飴村さんをぶん殴りたくなるぐらい、生理的な嫌悪感を催しました。素晴らしい(笑)。どうですか、書き手として会心の出来といえる場面はどこでしょう? 第三章の、脳味噌を掻き回す場面も、ありえないくらいにひどい描写ですが。
飴村 どこかな。……そうですね、第一章の、雷太(小学生だけど身長が一九五センチ、体重が百五キロあります。でも童顔)と二匹の河童が殺しあう場面でしょうか。あそこは結構思った通りに書けたかなと思っています。
――飴村さんは、アクションもうまいですよね。出し惜しみをしない感じというか、登場人物が肉体を損壊することを怖れないものだから、たいへん思い切ったことができる。スピーディーに書けていると思います。
飴村 ありがとうございます。
――逆に、ここは書きづらかったというところはありますか?
飴村 そうですね、第一章、第二章とハイテンションで来て、第三章でちょっと詰ったんです。どうしようかなと思って。じゃあ、ここは×××したら(×××は読んでのお楽しみ)読者は驚くかな、と思って
――だはは。驚きましたよ!(どう驚くのかは『粘膜人間』を読もう!)
飴村 でも、そこからどうやったらいいかわからなくなりました。キチタロウというキャラクターを出したんですけど、なかなか持っていき方がわからずに悩みました。実はこの三章は初稿のときは全然違う形だったんです。改稿で直しました。
――選考委員の荒俣宏さんは、作品を未来に設定したのは作者の逃げだと感じた、とおっしゃっていましたね。そこは改稿されたとか。
飴村 近未来というか、昭和八十二年の話だったんです。戦争がまだ終わっていない、パラレルワールドの日本でした。そこは選考委員の方には不評だったので、じゃあ過去の昭和の話にしようかと。
――第三章を直されたというのは、具体的にはどのあたりなんですか?
飴村 登場人物の二人が生首を持って森に帰っていく場面が途中にありますが、あそこで本当は終わっていたんです。かなりローテンションな終わり方で、自分でも物足りなかったんですが、〆切まで時間がなかったのでやむを得ず切り上げて応募してしまった。
――あ、なるほど。その後はまるまる付け加えたわけですか。おかげでさらに嫌な感じの小説になってしまって(笑)。やはり選考委員の林真理子さんは、話は気持ち悪くて嫌だけど、作者のストーリーテリングは認めざるを得ない、という趣旨の選評を書いておられます。私もそこは同感なんです。話の転がし方、キャラクターの動かし方は抜群に巧い。例を上げると、第一章と第二章で語り手が交替するでしょう。第一章では背景として出てきた人物が、まさか二章で視点人物になるとは思いませんもの。どうなるんだこの話は、と読んでいて思いました。やはり意外性は追求されたわけですか?
飴村 いえ、実はこの話は最初短篇だったんですよ。第一章だけで終わる予定だったんです。
――そうですか、たとえ一章で終わっていたとしても十分気持ち悪いです(笑)。
飴村 だから短編賞に出すつもりだったんですけど、書いているうちに清美(第二章の視点人物)はどうしてこんなことになってしまったんだろうと考え始めたんですね。それを書いたら話つながるかなと思って、長編にしたんです。自分でも先の展開がわからずに考えながら書いたんで、意外性を追ったというわけではないです。
――なるほど。この話は三章がそれぞれ独立しているから、別々の短編としても読めると思います。特に出色なのが第二章ですね。この髑髏という拷問を思いついただけでも十分に素晴らしい。先輩ホラー作家のみなさんはきっと、やられたなと思っているはずですよ。
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