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トップページ > B.J.インタビュー > vol.2 第15回日本ホラー小説大賞長編賞受賞 選考会史上、異例の物議を醸した衝撃のグチョエンタ作品、飴村行『粘膜人間』

第15回日本ホラー小説大賞長編賞受賞
選考会史上、異例の物議を醸した衝撃のグチョエンタ作品、飴村行『粘膜人間』

受賞秘話、そして気になる次回作はまたしても…

――受賞前後の話をお聞きしたいです。最終選考の結果は、どういう感じでお待ちになっていたのですか?

飴村 実は、一次、二次予選を通ったのを知らなかったんですよ。パソコンをネットにつないでいないもので。見ておいて、と兄に頼んでいたんですけど、彼は忘れていたんです。

――人生を賭けた弟の大勝負なのに(笑)。

飴村 だから、最終候補作に残ったという通知は突然来ました。完全に落ちたと思っていましたから、別の賞に応募しようとしていたんです。そこへ連絡を受けたもので、本当にびっくりしました。生きていた中で、いちばんびっくりしました。

――お兄さんも罪なことをしますね。

飴村 でも、一次、二次と通ったのを知っていたら、逆に生きた心地がしなかったと思います。仕事も何も手につかなくなる。かえって最終で知ったほうが、緊張する時間が短くてラッキーだったかもしれませんね。

――最終選考の日はどのように過ごされましたか?

飴村 朝から飯が食えなかったです。ずっと水ばっかり飲んでいました。だから報せを受けたときは「よかった、これでようやくご飯が食べられる」と思ったくらいで。あれは、午後六時四十分くらいでしたかね。通常は五時ぐらいに終わると聞いていたんですけど、事前に編集の方から「ちょっと延びるかも」と聞いていました。七時くらいにはなるかな、と思っていたので意外と早かったです。待っている間は何も考えられなかったですね。できるだけ悪いことは考えないようにしようとするんですけど、やはり人間ですから、いろいろと考えてしまう。今思い出しても、胃が痛くなります。

――緊張から解放されて、よかったですね。『粘膜人間』は、飴村さんの個性というか、一度読んだら絶対忘れられなくなるインパクトのある作品だと思います。これを読んだ人は、飴村さんと他の新人作家を絶対に混同しないでしょう。この後何を書いても「あ、粘膜の人だ」って言われると思うんですよ。

飴村 光栄なことだと思います。

――次回作の構想はすでにありますか?

飴村 はい。今まさに書いてます。『粘膜人間』と比べると、ちょっとエログロ度が落ちて、エンタメ度が上がったかな。

――「エログロ度が落ちた」って、飴村さんの場合、どのくらいを落ちたというのはわからないですね(笑)。でも、こういう作品は世の中にあるべきだと思うので、私も嬉しいです。この先、他の路線に転じる可能性はありますか?

飴村 いえ、こんな感じでいきます。

――当面の課題はグチョエンタ(笑)。書くスピードは速いほうですか?

飴村 そうですね。進むときは一日十枚ぐらいです。駄目なときは二、三枚かな。

――それは「この描写はグチョ度が足りない」とか、そういうことで悩んで進まなくなるんですか?

飴村 いえ、だいたいの骨格は決めて書き始めるんですけど、やはりディテールは書きながら出来上がっていくことが多いんです。小説の山場、盛り上がるところはずっと想像しているんで、書き始めるとバーッと進んでいきます。逆に、盛り上がる場面と場面の間をつなぐくだりというのが詰りますね。

――『粘膜人間』で感心したことがもう一つあります。こんなにグチョグチョの話なのに、視点はきちんと一視点に統一されていてブレがないんですね。肛門から鉄の棒をぶっ刺される場面でも、ちゃんと自分の視点が貫かれている(笑)。小説としては、そういう意味でも完成度が高いと感じます。だから不安なく読み通すことができました。

飴村 視点の固定は意識したことの一つです。ホラー小説なんで、読者には怖い体験をしてもらわないといけない。ブレがあったらまずいんです。だから一視点にがっちり固定して書きました。

――私は、あまりにもグロテスクなものを見ると、つい笑ってしまうことがあるんです。飴村さんもそういう体験はおありなのではないかと思いますが、過激すぎるものは半分笑いの対象になりますよね。『粘膜人間』は、そのツボを刺激する作品だと思います。これ、笑える人はすごく笑える小説ですよ。笑いが小説の緩衝材になっている部分があると思います。この感覚はぜひ大事にしていただきたいですね。

飴村 そうですね。お笑いも好きなんで。

――受賞後第一作は、いつごろ刊行の予定ですか?

飴村 夏ごろを目指したいと思っています。

――それは、『粘膜人間』と同じような世界で展開される物語なのでしょうか。

飴村 はい。というよりも世界設定はまったく一緒で、タイトルは『粘膜蜥蜴』を予定しています。

――ネンマクトカゲ! それはまた、嫌なタイトルですね(笑)。『粘膜』つながりですか。

角川編集者 プロットだけ読ませてもらいましたが、傑作ですよ。今度は、さらに泣ける要素が加わっているという。

――どういうホラーなんですか、それは。まったく想像できませんよ!

角川編集者 いや、そういう話なんです(笑)。

――そういえば『粘膜人間』の粘膜って、どういう意味なんですか? 私これ、最初に聞くべき質問を今頃していますね(笑)。

飴村 粘膜というと卑猥なイメージがあるでしょう。グロテスクで、さらに卑猥というイメージ。河童が代表例なんですけど、この小説の登場人物はみんなそういう、グロテスクでどこか卑猥という印象があると思います。だから、登場人物をすべて象徴する言葉として粘膜を当ててみたわけなんです。

――なるほど。グチョグチョの象徴なわけですね。さっきから私、何回グチョグチョって言っただろう。女性読者の反応が知りたいなあ。

飴村 ……引くと思うんですけどね。

――当たり前じゃないですか! 男性読者だって引く人は引きますよ(笑)。でもその方がいいんです。万人に中途半端に受け入れられるよりは、ゼロサムで極端に針が振れていたほうが絶対にいい。

飴村 そうですね、零点か百点か、どちらかなんだと思います。

――それだけ突出しているということです。これからもぜひその姿勢を守って妥協せず、グチョヌル道を突き進んでいってください。次回作も私は二回読み返すと思います(笑)。楽しみにしておりますので。

飴村 ありがとうございます。

――本日は、貴重な時間をいただき、有意義なお話をうかがうことができました。改めて御礼申し上げます。


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