原因不明の難病であるクローン病に加え、網膜色素変性症によって全盲となった著者の半生記である。
小学生の頃から入退院を繰り返す中で、自身も生死を彷徨い、そして悲しい別れを幾度となく経験してきた著者は「死」というものを常に身近に感じてきた。幼い頃から「死」と向き合ってきた著者だからこそ並外れた感性で本質を見抜き、過酷な運命をも受け入れた著者だからこそ難病や視覚障害について、これほどまでに冷静に書き上げることができたのであろう。愚痴はおろか、生きる事への喜びと前向きさを読み手に伝える文章の力にただただ圧倒された。「視覚障害とは見えないだけでそれ以上でもそれ以下でもなく、状況よっては視覚障害者でなくなる」と語れるまでに至ったその道程の険しさは察するに余りある。
他人と比べてしか幸せの尺度を測れない現代人に、生きるとは、また、愛情とは何かを問いかける本作品は、幅広い読者に読まれてしかるべき意義を有したものである事は間違いない。
素晴らしい本に出合えて心から喜んでいる。