書評の楽しみを考える Book Japan

 
 
 
トップページ > B.J.インタビュー > vol.9 丘の上の屋敷に魅了された人々のゴーストストーリー・ショーケース『私の家では何も起こらない』【恩田陸】

丘の上の屋敷に魅了された人々のゴーストストーリー・ショーケース
『私の家では何も起こらない』
【恩田陸】

――やはりこのお屋敷は街中ではなくて、荒野の中の一軒家なんですね。

恩田 そうですね、ムーアのイメージがとても強かったので。『嵐が丘』(E・ブロンテ)とか。ブラックジャックの家もそうか(笑)。それからやはりブラッドベリですね。ブラッドベリの作品に出てくるのは丘の上の一軒家なんです。それこそハロウィンにお化けが集まってきても他の人にはわからないような。あと、クリフォード・D・シマックの『中継ステーション』もそうで、あれも丘の上の家からなんでも俯瞰してるという話です。そのへんのファンタジーのイメージもすごく強いと思いますね。丘の上に建ってる家、世界との境界線はだいたい丘の上に建ってるもんだっていうイメージです。

――絵画で言うと何か近いものはありますか。

恩田 うーん……特には。それこそブラッドベリ作品の挿絵とかですね。ジョー・マグナイニという、こまかーい絵を描く方なんですよ。小さな家が丘の上に建ってるという。あ、あと絵本の「ちいさなおうち」とかも、最初と最後は丘の上に建ってますね。

過去と現在が相克する「今にして思えば」

――さきほど幽霊屋敷のクロニクルというお話が出ました。恩田さんはクロニクルの形式を使われることが多いですが、やはり物語のイメージが膨らませやすいからでしょうか?

恩田 クロニクルにすると、書いていない部分を読者の方で補ってもらいやすいという理由もあります。

――壮大な物語を読者が補完していくという。

恩田 ええ、読んでいる方に作っていただくという。書かれない部分も楽しめるというのがあってクロニクル形式は好きなんです。読むのも書くのも。

――印象的な絵になる風景を提示してその間をつなぎあわせるっていう形になるんですよね。たとえば『ライオンハート』もそうした連作でした。

恩田 『私の家では何も起こらない』の場合は、場面をつなぎ合わせるというよりは毎回の違った話をやりたい、怖さの種類をショーケースみたいな感じで並べてみたいというのがあって、そっちのほうでクロニクルにしてみたっていう感じですね。

――物語の形式でいえば、伝聞をうまく使っているということもあります。そのままずばりを出すのではなくて、誰かの言葉として一回迂回させることによって、情報が増幅されるという形の話をデビュー以来ずっとお書きになっておられますね。

恩田 そうそう。この本の最後にも書いたんですけど、「今にして思えば」というのがすごい気になるツボのフレーズなんです。今にして思えばあれは変だった、あのときはわからなかったけど、今にしてみれば変だ、っていうのが私のテーマ、というか好きなんですね。「今にして思えば」。要するに過去と現在が相克する、今なんだけど過去に引き戻されるっていうのが私のテーマの一つなんじゃないかなと……今にして思えば(笑)。

――過去から現在に流れるというよりは、現在から過去に引き戻される時間ということですよね。

恩田 で、過去から現在に戻ってくるとまた別のものになっているという。そういう話が好きですし、実際の出来事もそういうものなんじゃないかと思うので。

――お行儀よく過去と現在がつながっていないということの一つの象徴として、恩田さんの作品には、自分の過去から復讐されるお話がないという印象があるんです。過去から現在への因果関係を考える人なら、絶対にそういう話になるのに。

恩田 そうですね。アガサ・クリスティーの『スリーピング・マーダー』が本当に好きなんですよ。話のパターンとして、ああいう話が。過去が現在を襲ってくるというよりは、過去が今にも影響するけど、過去のほうもちょっとだけ変えて元に戻るみたいな話が好きなんですよね。

――現在の中にある過去というのは、日常の中に違和感というか不審な点を感じる、というようなことをきっかけにして意識されたものなんですか?

恩田 このあいだ、なんで月が大きく見えるんだろうという話をしていたんです。ぱっと見ると月って結構大きく見えるのに、写真を撮るとこんなにちっちゃくしか写らない。人間はデフォルメして見てるんですよね。これはこのくらいの大きさだって思って見ているものって実は全然違うんじゃないかって最近思うんですよね。そういうところに、こう思っていたのに実は全然違うっていうことを日々感じることが多いんです。だからそこから始まったものがテーマになっているんじゃないかって自分では思うんですけど。

――人間の内的宇宙を経由していくと、外界はすごくねじ曲がったものになる。

恩田 ということも思うし、もう書きましたけど、人は主観でしか生きられない生き物なので、じゃあ本当の姿って何なんだろうと考えると結構恐いなと思うことが多いんですよ。そのへんがテーマというか、この作品にもちょっと入ってるかなと思います。

――「藪の中」タイプの小説に関心を引かれるのはそういうところなんでしょうね。

恩田 そのとおりだと思います。


インタビューで紹介されている本

嵐が丘
エミリ・ジェーン・ブロンテ 鴻巣友季子
新潮社新潮文庫小説] 海外
2003.06  版型:文庫
価格:740円(税込)
>>詳細を見る
ライオンハート
恩田陸
新潮社新潮文庫小説] 国内
2004.02  版型:文庫
価格:660円(税込)
>>詳細を見る

boopleで検索する

お探しの書籍が見つからない場合は、boopleの検索もご利用ください。Book Japan経由でのご購入の場合、Book Japanポイントをプラスしたboopleポイントを付与させていただきます。

booplesearch


注目の新刊

Sex
石田衣良
>>詳細を見る
失恋延長戦
山本幸久
>>詳細を見る
自白─刑事・土門功太朗
乃南アサ
>>詳細を見る
ガモウ戦記
西木正明
>>詳細を見る
怨み返し
弐藤水流
>>詳細を見る
闇の中に光を見いだす─貧困・自殺の現場から
清水康之湯浅誠
>>詳細を見る
すっぴん魂大全紅饅頭
室井滋
>>詳細を見る
すっぴん魂大全白饅頭
室井滋
>>詳細を見る
TRUCK & TROLL
森博嗣
>>詳細を見る
猫の目散歩
浅生ハルミン
>>詳細を見る
さすらう者たち
イーユン・リー
>>詳細を見る
猿の詩集 上
丸山健二
>>詳細を見る
ポルト・リガトの館
横尾忠則
>>詳細を見る
ボブ・ディランのルーツ・ミュージック
鈴木カツ
>>詳細を見る
カイエ・ソバージュ
中沢新一
>>詳細を見る
銀河に口笛
朱川湊人
>>詳細を見る
コトリトマラズ
栗田有起
>>詳細を見る
麗しき花実
乙川優三郎
>>詳細を見る
血戦
楡周平
>>詳細を見る
たかが服、されど服─ヨウジヤマモト論
鷲田清一
>>詳細を見る
冥談
京極夏彦
>>詳細を見る
落語を聴くなら古今亭志ん朝を聴こう
浜美雪
>>詳細を見る
落語を聴くなら春風亭昇太を聴こう
松田健次
>>詳細を見る
南の子供が夜いくところ
恒川光太郎
>>詳細を見る
星が吸う水
村田沙耶香
>>詳細を見る
コロヨシ!!
三崎亜記
>>詳細を見る
虚国
香納諒一
>>詳細を見る
螺旋
サンティアーゴ・パハーレス
>>詳細を見る
酒中日記
坪内祐三
>>詳細を見る
天国は水割りの味がする─東京スナック魅酒乱
都築響一
>>詳細を見る
水車館の殺人
綾辻行人
>>詳細を見る
美空ひばり 歌は海を越えて
平岡正明
>>詳細を見る
穴のあいたバケツ
甘糟りり子
>>詳細を見る
ケルベロス鋼鉄の猟犬
押井守
>>詳細を見る
白い花と鳥たちの祈り
河原千恵子
>>詳細を見る
エドナ・ウェブスターへの贈り物
リチャード・ブローティガン
>>詳細を見る
人は愛するに足り、真心は信ずるに足る
中村哲澤地久枝
>>詳細を見る
この世は二人組ではできあがらない
山崎ナオコーラ
>>詳細を見る
ナニカアル
桐野夏生
>>詳細を見る
逆に14歳
前田司郎
>>詳細を見る
地上で最も巨大な死骸
飯塚朝美
>>詳細を見る
考えない人
宮沢章夫
>>詳細を見る
シンメトリーの地図帳
マーカス・デュ・ソートイ
>>詳細を見る
身体の文学史
養老孟司
>>詳細を見る
岸辺の旅
湯本香樹実
>>詳細を見る
蝦蟇倉市事件 2
秋月涼介、著 米澤穂信など
>>詳細を見る
うさぎ幻化行
北森鴻
>>詳細を見る

Internet Explorerをご利用の場合はバージョン6以上でご覧ください。
お知らせイベントBook Japanについてプライバシーポリシーお問い合わせ
copyright © bookjapan.jp All Rights Reserved.