理系萌え度★★★★ 美味しいレシピ度★★★ 破壊的親族度★★★★★
理系男子は好きですか? はい、大好きです! メガネ男子は? はい、大好物です!
オタクでもいいの。謎めいた数字の世界とメガネの奥の秘密をそっと見せてほしい……。
そんな、理系メガネ男子大好きっ娘垂涎のロマンティック・サスペンスが本書。舞台は、曇天とスターバックスとマイクロソフトの街、シアトル。
セキュリティ・システム開発会社の社長スタークは、結婚式当日に花嫁に逃げられ、その日のパーティの仕出し請求書を突き付けるケータリング業者に、なぜ逃げられたのか、忌憚のない意見を求めていた。訊かれたケータリング業者――役者一家で育ち、根なし草の親族をケータリング業で支えるデズデモーナも、困り果てていた。スタークの噂は打ち合わせに来た花嫁から聞いていた。若くして成功した、人間コンピュータの異名を取る天才。だが、機械じゃないかと思われるくらい人間的感情に乏しい冷血漢のオタク。すでに一度、同じように結婚直前に花嫁に逃げられた経験のあるスタークは、今度の花嫁には婚前契約を結ぼうと持ちかけたという。目前にはサラダやミニタルトの山。力作のウエディングケーキ。そして解けかけた氷のスワン。この代金を払ってもらえなければ、彼女のみならず彼女が支える親族たちも路頭に迷ってしまう。だが、いくら人間コンピュータと言われる男だって、二度も花嫁に逃げられれば、傷ついていないはずがない。それにスタークは、がっしりと鍛えられた中世の騎士のような風貌で、黒髪に眼鏡の奥の緑の瞳がとても魅力的だ。こんな場で出会わなかったら……。
一方、スタークも、目の前のケータリング業者が、赤毛にトルコ石色の大きな瞳をした、子猫のようにチャーミングな女性であることに気づく。こんな日は一人でいないほうがいいと、デズデモーナから彼女の一族が出演する芝居小屋に招待されたスタークは、こんな日だというのに楽しめてしまった。そのおかげで妙案が浮かぶ。もともと妻には、スタークが苦手の社交面を助けてもらう予定だった。妻の代わりにプロのケータリング業者に助けてもらえばいいのだ。そう、デズデモーナに。
急速に魅かれあい、距離を詰めていく二人。そんな矢先、スタークの最新システムを狙うハッカーが現われ、スタークの屋敷に出入りしていたデズデモーナのケータリング・スタッフに容疑が。身内を疑われたデズデモーナの出した解決策は、事件の調査員としてスタークを雇うという突飛なものだった。惚れた弱みで調査を引き受けたスタークだが、ケータリング・スタッフ――具体的に言えば、スタークを目の仇にしているデズデモーナの義兄――への容疑は深まるばかり。スタークの同僚には、デズデモーナを疑う向きも出てくるなか、今度は、デズデモーナの会社の倉庫で強盗殺人が起きる。これだけでも前途多難だというのに、突然現れたスタークの幼い弟たちや、やたらと騒ぎたがるデズデモーナの親戚一同と、問題は山積み。さらに、スタークは、二度にわたる過去の失敗や、両親の離婚が落とした影から脱することができず、どうしてもデズデモーナに「愛している」のひとことが言えなくて……。
何事も厳密に捉え、妥協を許さない、専門バカの孤独なスタークと、お人好しの世話焼き気質で、感情豊か、身内をなにより大事にしているデズデモーナ。生まれも育ちも性格も正反対の二人が魅かれあったのは、むしろ必然かもしれません。てゆーか、スタークがイイんですよ! 言葉の定義を正確にしないと気がすまないところとか、デズデモーナの美しさをコンピュータ・アートに見立ててしまうところとか、彼女への誕生日プレゼントは自家製PDAだとか、メガネを外して鼻筋を揉むところか、萌え~です! しかもスタークは、意外と身体を鍛えているメガネを外すとハンサムなうえ、父親と義理の母親の離婚で路頭に迷いかけた弟二人を引き取るなど人情家なところもあり。とくに人情方面は、デズデモーナに日々開発されているので、どんどんイイ男度をアップ中。
さらに、忘れちゃいけないのが、デズデモーナの職業からくる、ケータリング・レシピの多彩さ。ゴートチーズのハーブあえとか、ほうれん草のミニキッシュとか、赤ピーマンを詰めたスタッフド・エッグとか、ブルーコーン・パンケーキとか……なんておしゃれで美味しそう。
そして、脇役陣のにぎやかさも突出しています。とくに、デズデモーナの親族たちは、みんなシェークスピアにちなんだ名前がついていて、何事も大袈裟に振舞うのが特徴。一族の団結を旨として、どんなときにも賑やかです。中には、女性専門の大人のおもちゃ屋を始めるおじ・おば夫婦まで登場し、デズデモーナに素敵なプレゼントをくれたりする。ちなみに私は、スタークの弟たちの子守を引き受けてくれた、マクベスおじさんがイチオシ。線の細い演劇青年が現われるかと思いきや、黒いミラーグラスに、アモベルトをたすき掛けにしたマッチョマンが、ジープで登場し、「乗りな」と渋く決めたら、そりゃあ子供は夢中になりますよ(私もときめいた)。
そんな楽しくて萌え要素満載のこの物語を書いたジェイン・アン・クレンツは、別名義アマンダ・クイックでヒストリカル・ロマンスもものしている。覚えている方がいれば幸いだが、以前ご紹介した『満ち潮の誘惑』の著者なのだ。そういえば、あのときも洞窟のシチュエーション萌えとか書いてました。てへ。クレンツは、女子のいろんな萌えに対応できる、素晴らしい作家ということですよ。