ロマンティックな夜度★★★★ コスプレ度★★★ シチュエーション萌え度★★★★★
洞窟は好きですか? 私は大好きです。江戸川乱歩や横溝正史を読んでいた幼い昔から、あの昏い密閉感や秘密の匂いに興奮せずにはいられません。
そんなわけで、今回オススメするロマンスは、ヒストリカル・ロマンスの第一人者による、リージェンシー(1811~1820年のイギリス摂政公時代――そこまで厳密にとらず1795~1837くらいまでおおざっぱにとることもある)ものの洞窟ロマンスです。
海に面したイングランドの田舎の村、ブラックソーン・ホール。牧師だった父親の死後、叔母と妹を抱えて化石発掘にいそしむハリエットは、村の領主であるセント・ジャスティン子爵ギデオンの訪問を受ける。ハリエットが化石の収集をしている海辺の洞窟を盗賊が盗品の隠し場所として利用している形跡があるため、領主に解決してもらおうと呼びだしたのだ。たくましい大男のギデオンの顎には、昔ついたらしい大きな傷跡が走っていた。恐ろしげな外見や横柄な態度とは裏腹に、ギデオンは約束通りすぐさま盗賊逮捕に乗り出してくれた。だが、捕り物の途中、ハリエットはギデオンとともに満ち潮で洞窟に閉じ込められてしまう。村で(そしてロンドンの社交界でも)ギデオンは、かつて婚約者だった村の娘を孕ませて捨て、娘を自殺に追い込んだとして、「ブラックソーン・ホールの野獣」と呼ばれ、忌み怖れられていた。潮が引くまでの一夜、ふたりっきりで過ごさねばならない。寒さをしのぐために肌を寄せ合うふたりの間に、熱っぽい緊張感が高まっていた……。
父に代わって家を守ろうとするハリエットは、おしゃれや結婚よりも化石を愛する変わり者のオールドミス(といっても25歳なんですが)。誰もが目を見張る美人ではありませんが、ふわふわの豊な髪に優美な姿態、大きなターコイズ・ブルーの瞳に好奇心を輝かせ、こぼれる笑顔は見る者を惹きつけます。少々頑固者ですが、頭が良く偏見に惑わされない純粋な心の持ち主です。対するギデオンは、ブラックソーン・ホールでの過去のスキャンダルで身内にまでも品性を疑われ、兄の死や、傷を負う原因となった友人とのいざこざで、すっかりヒネくれてしまったものの、本来は責任感が強く、内に優しさを秘めた人物。彼は顔の傷や醜い噂で女性には好かれないものと諦観していますが、その男らしい容貌の中で燃え上がるライオンのような黄褐色の眼に見つめられたハリエットは、まるでか弱い王女になったかような気分でうっとりするのです。
過去に傷を持ち、現在の愛すらも否定する男と、彼を理解するがゆえに、愛を要求できない女。すれ違う切ない恋心。
でも洞窟の暗闇は、そんなすべての虚飾を取り去っていくのです。
暗がりに反響するふたりの息遣い。熱量。警戒心の薄いハリエットに注意を促そうとギデオンがしかけたキスは、思わぬ激しいものとなります。
<ギデオンは重々しいうなり声をあげた。胸の奥深くから轟いてくるような音だった。大きな手が驚くほどの優しさでハリエットの喉を包み、親指が顎のラインをなぞっている。彼は彼女をよりきつく引き寄せ、自分の体の激しい熱を感じさせた。どっしりとした外套がハリエットの脚にこすりつけられた。>
初めはとまどっていたハリエットですが、すぐにコツを掴んで、自ら発掘に乗り出します。
<「これほど堂々たる大腿骨は見たことがないわ」
てのひらがさらに上に這い上がり、黒いシルクのガウンを押し開いて太腿をあらわにすると、ギデオンは息を呑んだ。「きみに高く評価してもらって嬉しいよ」
「ほんとうにすばらしいわ」ハリエットは顔を下げ、太腿に軽く湿ったキスをした。固い縮れ毛が鼻をくすぐった。彼の男らしいにおいが、自分の中に欲望を引き起こすのを彼女は強く意識した。手が太い彼に触れた。「さて、なんとも興味深いものを発見したわ」>
なにを発見したんだかっ。
洞窟マニアのみならず、素敵なロマンスに出会えることをお約束します。