おすすめ本書評を満載 オンライン・ブックストア Book Japan

 
 
 
トップページ > 連載企画 > Tuesday & Friday新刊チェック > グレイの瞳にささやいて

グレイの瞳にささやいて

1冊の古書から始まるスパイ大作戦
野暮な学者の彼のメガネを取ったその正体は?

不来方優亜 Tuesday新刊チェック in ロマンス 2010/2/16
エリザベス・ソーントン細田利江子
竹書房ロマンス] 海外
2010.02  版型:文庫
>>書籍情報のページへ
レビュワー/不来方優亜

バレンタインに、秋葉原で理系メガネ男子の白衣イベントがあると聞いて、心騒いだ今日このごろ。やっぱメガネは、外させるところに美学があるんだわ。でもその究極形って、有名なあの人なのかしら?……などと思いながら、本書を読んでいたら、ヒーローの、野暮な学者であるはずのヒューが、「眼鏡を外すとローマ軍の百人隊長」との記述を見て噴きました。おまえはあの人――“サラリーマン金太郎”かー(かーかーかー[*エコー])!

ナポレオンが斃れ、英仏の国交が再開して間もない19世紀前半。27歳の少々トウのたった貴族令嬢アビーは、弟のジョージとともに訪れた旅行先のパリの古本屋で、美しいパリジェンヌにぶつかります。そのパリジェンヌは、実はイギリスのスパイ、コレットでした。コレットは、ナポレオンの腹心で、ナポレオンと共に死んだとされていたネモが生きて活動しているという情報を、イギリスの諜報部に古本に隠して届けようとしていましたが、ネモの手勢に追われて、やむなくたまたま行き会ったアビーの買い物籠に、問題の本を滑り込ませたのです。なにも知らないアビーはその日から、ネモと英国諜報部の双方から追われる羽目に!

パリから戻ってまもなく、アビーを追い詰めたのは、スパイたちではなく家族でした。友人の考古学研究仲間ヒューとパリで会ったので、ついでに家族に宛てた手紙を預けたところ、家族たちはロマンチックな誤解、つまり、行き遅れのアビーについに結婚相手が現われたと思いこみ、アビーを問い詰めたのです。ヒューは単なる友達、そう思っていたアビーでしたが、アビーへの刺客を察知して、ふとメガネを外したヒューを目にし、その素顔が「ローマ軍の百人隊長」のようであることに気づいて、どぎまぎします。長身のたくましい身体に、一房額に垂れかかる前髪と端正な横顔のセクシーなこと! 適齢期の頃、恋人と思っていた男性から、美貌の妹に鞍替えされるという仕打ちを受けて以来、臆病になっていたアビーに恋の予感が。

一方、ヒューのほうは、金髪に大きなグレイの瞳が美しい、他の誰とも違う反応を彼に返すアビーに、密かに夢中でした。しかし、彼には、アビーに言いたくない過去がありました。今は引退したものの、かつて英国のエリート諜報部員として活躍し、仕事にかまけるあまり、妻と仲違いし、孤独のうちに死なせてしまったのです。アビーのことを愛しながらも、自分が結婚に向かないのではないと疑い、なかなか一歩を踏み出せません。しかし、アビーが諜報部に狙われていることを知り、身をもって彼女を守る決意をします。ただ、擬態の学者肌のメガネ男子(本来ヒューが進みたかったのは学者の道なので、本道とも言えますが)の期間が長すぎたせいと、諜報部員だったと告白できないせいで、ヒューを巻きこむまいと案じるアビーから、なかなか頼ってもらえないのです。

アビーは、ネモに、弟のジョージを人質に取られ、返して欲しければ本と交換だ、と言われますが、初めはわけがわかりません。それでも頭のよい女性なので、なんとか断片から事実を類推し、ひとり、ネモに立ち向かう決意をします。

しかし、アビーがヒューを巻きこまないためについた嘘と、ヒューがアビーを助けるためについた嘘が、恐るべきネモや百戦錬磨の諜報員たちの横やりと絡まり合って、二人の間に最悪の誤解を招きます。はたして二人は誤解を解き、ネモと英国諜報部を出し抜いて、無事にジョージを取り戻せるのでしょうか。

いやーーーー、メガネを取るとスゴイという文化が、外国にもあるんですね。よく考えてみれば、スーパーマンだって変身するときは、スーツを着替えるとともにメガネも外していたのだから、そうそう奇異なものではないのかもしれないですけど。それにしたって、メガネ取ったら、仕事のデキる男になって、下半身もストロングだなんて、“金太郎”すぎるよ。

“金太郎”萌えもさることながら、本作は、脇を固める悪役勢もバラエティに富んでいて、読み応えをいやまします。ネモ、というのは、ラテン語で「誰でもない」、つまり「名無しの顔無し」という意味で、変装の達人だった彼を恐れた英国軍がつけたあだ名です。ネモはあらゆる人物になりすまし、アビーたちのそばに接触してきます。その忍びよる恐怖といったら! 
さらに、ヒューのかつての同僚でライバルだった英国諜報部のエース、メイトランドが、アビーこそネモの手先なのではと疑い、アビーをニューゲイト監獄にぶち込んで、厳しい責め苦を味あわせるのです。『ニューゲイトの花嫁』って、ジョン・ディクスン・カーのミステリにありましたけど、なかなかないですよ、ヒロインが監獄にまで落ちてしまうのって。つまり、“金太郎”だけじゃなくて、ストーリーに起伏のある、なかなか奥深い話なのです。

作者のソーントンは、すでに6冊の邦訳があり、いずれもロマンティック・ヒストリカル・サスペンスの秀作です。本作の、上記のようなロマンティック・サスペンスの巧さに加えて、家族の絆が再生したり、男同士の友情が芽生えたりと、てんこもりなこの魅力を“金太郎”にうわ乗せしてお伝えしたい……。メガネ男子をなめんじゃねぇぇぇ!☆☆☆☆☆
悪役キャラ立ち度☆☆☆☆
ヒーロー変身度☆☆☆☆

とてもおすすめ ☆☆☆☆☆
おすすめ ☆☆☆☆
まあまあ ☆☆☆
あまりおすすめできない ☆☆
これは困った

おすすめ本書評・紹介書籍

グレイの瞳にささやいて
エリザベス・ソーントン 細田利江子
竹書房ロマンス] 海外
2010.02  版型:文庫
価格:950円(税込)
>>詳細を見る

boopleで検索する

お探しの書籍が見つからない場合は、boopleの検索もご利用ください。Book Japan経由でのご購入の場合、Book Japanポイントをプラスしたboopleポイントを付与させていただきます。

booplesearch   

注目の新刊

Sex
石田衣良
>>詳細を見る
失恋延長戦
山本幸久
>>詳細を見る
自白─刑事・土門功太朗
乃南アサ
>>詳細を見る
ガモウ戦記
西木正明
>>詳細を見る
怨み返し
弐藤水流
>>詳細を見る
闇の中に光を見いだす─貧困・自殺の現場から
清水康之湯浅誠
>>詳細を見る
すっぴん魂大全紅饅頭
室井滋
>>詳細を見る
すっぴん魂大全白饅頭
室井滋
>>詳細を見る
TRUCK & TROLL
森博嗣
>>詳細を見る
猫の目散歩
浅生ハルミン
>>詳細を見る
さすらう者たち
イーユン・リー
>>詳細を見る
猿の詩集 上
丸山健二
>>詳細を見る
ポルト・リガトの館
横尾忠則
>>詳細を見る
ボブ・ディランのルーツ・ミュージック
鈴木カツ
>>詳細を見る
カイエ・ソバージュ
中沢新一
>>詳細を見る
銀河に口笛
朱川湊人
>>詳細を見る
コトリトマラズ
栗田有起
>>詳細を見る
麗しき花実
乙川優三郎
>>詳細を見る
血戦
楡周平
>>詳細を見る
たかが服、されど服─ヨウジヤマモト論
鷲田清一
>>詳細を見る
冥談
京極夏彦
>>詳細を見る
落語を聴くなら古今亭志ん朝を聴こう
浜美雪
>>詳細を見る
落語を聴くなら春風亭昇太を聴こう
松田健次
>>詳細を見る
南の子供が夜いくところ
恒川光太郎
>>詳細を見る
星が吸う水
村田沙耶香
>>詳細を見る
コロヨシ!!
三崎亜記
>>詳細を見る
虚国
香納諒一
>>詳細を見る
螺旋
サンティアーゴ・パハーレス
>>詳細を見る
酒中日記
坪内祐三
>>詳細を見る
天国は水割りの味がする─東京スナック魅酒乱
都築響一
>>詳細を見る
水車館の殺人
綾辻行人
>>詳細を見る
美空ひばり 歌は海を越えて
平岡正明
>>詳細を見る
穴のあいたバケツ
甘糟りり子
>>詳細を見る
ケルベロス鋼鉄の猟犬
押井守
>>詳細を見る
白い花と鳥たちの祈り
河原千恵子
>>詳細を見る
エドナ・ウェブスターへの贈り物
リチャード・ブローティガン
>>詳細を見る
人は愛するに足り、真心は信ずるに足る
中村哲澤地久枝
>>詳細を見る
この世は二人組ではできあがらない
山崎ナオコーラ
>>詳細を見る
ナニカアル
桐野夏生
>>詳細を見る
逆に14歳
前田司郎
>>詳細を見る
地上で最も巨大な死骸
飯塚朝美
>>詳細を見る
考えない人
宮沢章夫
>>詳細を見る
シンメトリーの地図帳
マーカス・デュ・ソートイ
>>詳細を見る
身体の文学史
養老孟司
>>詳細を見る
岸辺の旅
湯本香樹実
>>詳細を見る
蝦蟇倉市事件 2
秋月涼介、著 米澤穂信など
>>詳細を見る
うさぎ幻化行
北森鴻
>>詳細を見る

おすすめ本書評・新着情報

【RSS配信】http://www.bookjapan.jp/whatsnew.rdf
RSSリーダーにURLを登録すると、ブックジャパンの更新情報を購読することができます。

3/15[お知らせ]
新刊情報の登録は休止させていただきます。おすすめ本書評の新規掲載は近々再開の予定ですので、どうぞお楽しみに。
3/12[読者投稿書評
坂本龍馬暗殺事件覚え書土屋雄嗣 投稿者/ドクロ岩さん
3/10[ウィークリー最新ランキング]
島田裕巳『葬式は、要らない』ついにトップ―新書・ノベルス売上ランキング
3/9[ウィークリー最新ランキング]
『食堂かたつむり』トップ2週目―文庫売上ランキング
3/8[ウィークリー最新ランキング]
内田康夫『教室の亡霊』が第2位へ浮上―文芸書売上ランキング
3/3[ウィークリー最新ランキング]
『葬式は、要らない』が第2位に急上昇―新書・ノベルス売上ランキング
3/2[読者投稿書評
Heart Prints ~命の花~川満ダグラス哀行 投稿者/Oriwaさん
3/2[ウィークリー最新ランキング]
『サヨナライツカ』に替わって『食堂かたつむり』が初のトップ―文庫売上ランキング
3/1[お知らせ]
おすすめ本書評の新規掲載はしばらく休止させていただきます。
3/1[ウィークリー最新ランキング]
『カッコウの卵は誰のもの』トップ3週目、『教室の亡霊』トップ10入り―文芸書売上ランキング
2/19[杉江松恋 Friday新刊チェック
ラガド─煉獄の教室両角長彦 / 『四十九日のレシピ伊吹有喜 / 『T・S・スピヴェット君傑作集ライフ・ラーセン
2/25[堀和世 書評&エッセイ
おれ、今日は(も!)長いよ

邪悪なものの鎮め方内田樹
2/24[おすすめ本書評
グリニッチヴィレッジの青春スージー・ロトロ レビュワー/山崎まどか
2/24[ウィークリー最新ランキング]
『カッコウの卵は誰のもの』トップ2週目、西尾維新続々―文芸書売上ランキング
2/23[おすすめ本書評
ベルリン・コンスピラシーマイケル・バー=ゾウハー レビュワー/酒井貞道
2/23[ウィークリー最新ランキング]
『葬式は、要らない』がトップ50へ新登場、驚きの第9位―新書・ノベルス売上ランキング
2/22[山本善行 この文庫を見逃すな
東京オブジェ─人と歴史をさがしに』著 大川渉
2/22[ウィークリー最新ランキング]
『サヨナライツカ』トップ2週目、次いで『食堂かたつむり』―文庫売上ランキング
2/19[末國善己 Friday新刊チェック
絵伝の果て早瀬乱 / 『もいちどあなたにあいたいな新井素子 / 『悦楽王団鬼六
2/18[おすすめ本書評
中谷宇吉郎 レビュワー/友部正人
2/18[B.J.ピックアップ
『ボート』ナム・リー
2/18[ウィークリー最新ランキング]
『カッコウの卵は誰のもの』ついにトップ―文芸書売上ランキング
2/17[北條一浩 復刊イチオシレコメン本
巡航船/夜學生─杉山平一詩集杉山平一
2/17[ウィークリー最新ランキング]
『ルポ貧困大国アメリカ 2』さらに上昇、第4位―新書・ノベルス売上ランキング

Internet Explorerをご利用の場合はバージョン6以上でご覧ください。
お知らせイベントBook Japanについてプライバシーポリシー広告掲載について出版社・著者のみなさまへお問い合わせ
copyright © bookjapan.jp All Rights Reserved.