本格ミステリーは謎解きを主体にしたミステリーである——とかりに定義したところで、その内容は極めて多岐に渡っている。そもそも謎とは何なのか? どんな手法で謎を提示し、いかにして解決させるのか? そこに柔軟性があるからこそ、読者はバラエティ豊かな作品群を楽しめるわけだ。しかし物事には原型というものもある。名探偵が不可能犯罪のトリックを暴くプロットは、本格ミステリーの“それ”の一つに違いない。『扼殺のロンド』はその忠実な再現と言えるだろう。
整備工場に激突したスポーツカーに乗っていたのは、一組の男女の謎めいた死体だった。女は腹を裂かれて胃と腸を抜き取られ、男は(平地にも関わらず)重度の高山病を発症していた。車のドアと窓は開かず、工場の扉には南京錠が掛かっており、現場は二重の密室状態。直前にすれ違った目撃者によると、彼らは車内で確かに生きていたらしい。刑事の友人にして“自称名探偵”の海老原浩一が捜査に加わるものの、やがて第二、第三の密室殺人が発生するのだった……。
二〇〇五年に『天に還る舟』(島田荘司との共著)を上梓した小島正樹は、二〇〇八年に『十三回忌』で本格的なデビューを遂げたが、これは島田の影響が強い——悪く言えば劣化コピーめいたテキストだった。しかし第二長編『武家屋敷の殺人』において、著者は“謎と解明”を増やすことで独自性を志向している。三つの密室殺人を扱った『扼殺のロンド』はその延長線上の野心作にほかならない。
状況設定やトリックの新味が薄いため、総じて古風な印象は否めないが、これは確信犯的な試みと見るべきだろう。現実味や動機にも疑問はあるにせよ、ここには形式美への信仰がある。著者の姿勢に対して☆☆☆を贈りたい。
とてもおすすめ | ☆☆☆☆☆ |
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おすすめ | ☆☆☆☆ |
まあまあ | ☆☆☆ |
あまりおすすめできない | ☆☆ |
これは困った | ☆ |