続いての本もカバーにやられました。この白と赤。ある種の白と赤の組み合わせに弱いのだなあ。いちごのショートケーキが、自分にとってはベストな白&赤なんだけど、ま、それはともかく。
猫村さん、じゃなかった、ほしよりこさんの絵。いしいしんじさんの文。おお、二人とも全部ひらがなやんか。
見える人にしか見えない「赤ずきん」。それは「あたい」にはもちろん見えていて、「赤ずきん」とは「あたい」が纏っているものであると同時に「あたい」の名前(?)でもあるようだ。で、「あたい」は犬を飼っているのだけれどもその犬は透明で、「あたい」は今度はそれは見えないらしい。しかも犬の名は「おおかみ」。
ちょっと、なにそれ。
「赤ずきん」が見えるのはジローだけで、しかしジローは遠くに行ってしまい、どうやら、ドンデコスタ丸というマグロ船に乗っているらしい。で、手紙を書くのだけれど、どこかの海の上ということ以外、まったく住所などわからないという。
ちょっと、なにそれ。
15分もあれば読めてしまう、少なくとも視線が踏破してしまうという意味では15分の本なので、引用するともったいないのだが、やっぱり冒頭の奇天烈さは味わっていただこう。
【あたい赤ずきん。スカ生まれのスカ育ち。犬は飼ってるケードー、透明な犬であたいにも見えないんだ。ずっとこの店に出てるケードー、お酒とか飲めないカーラー、リンゴジュースちびちびやりながら、マグロ船ドンデコスタ丸で出て行ったジローに手紙を書く。】
実にこう、パンクである。蓮っ葉具合がいい。あっ、ところで「蓮っ葉」ってなんで蓮の葉なのか? 気になったので調べてみました。へええ、面白い。皆さんも調べてみてください(本筋と関係ないので説明しません)。
これは絵本だろうか? まあ、そう言ってけっして間違いではないだろう。絵を書く人=ほしよりこさん。文を書く人=いしいしんじさん。きっとこのことは企画の最初の段階から決まっていただろう。ああでも……。「ハイ、絵本です」と言うとなにか違うというか、確かなのはこれが「おはなしのたからばこ」というシリーズの本だということだけだ。
おはなし。話。小説? 童話? 物語? 違うよ、だから「おはなし」だってば。でもその「おはなし」というのが、別に小説も童話も物語も頑なに拒絶しているふうでもなく、「まあでも、おはなしですけどねー」という涼しい風情が漂っている。で、考えてしまう。話ってなんだっけ? 文って、どういうものだっけ?
ほしよりこさんの絵がまた、バカみたいに「いい」としかいいようがないというか、どうして「線」というものが少しあっち向いたりこっち向いたり、その「線」の長さや角度、描く時のちから加減? でこんなにも表情が変わってしまうのか。木って、波って、犬ってこんなふうなんだ、そうだよなって、どうして全部「線」でそれができてしまうのか、そして、絵って何だっけ? と途方に暮れるようなところがあって、しかしその途方はかなり気持ちがいい。
少し大げさかもしれないが、なんというか、言葉って物質なんだな、という感じ。概念としての「線」は物質じゃないが、絵の「線」は物質。そんな感じ。
この世に「色」があることの不思議に、ふと瞬きするような、そんな本。個人的に「二色」の本は大好きだけど、来てますねー『赤ずきん』の「赤」は。なんだろう「赤」って……と考えて、また途方が暮れてゆく。
この本は、文庫サイズで刊行されていたものを大きくして、大幅に増頁して作ったものだそうだ。フェリシモというのは、通販の会社ですね。女性向けのファッションが中心かな? 会員向けにプレゼントとして作られた(つまり非売品)ものを、一般販売向けに大きく(A4より少し小さい)して、「おはなしのたからばこ」として展開して行こうということらしい。その第1回配本がこの『赤ずきん』。
いやほんと、大きくしてくれてありがとう。この絵。この線。この言葉。この文。この赤。いやはや、ありがとうございます。
お話がムチャクチャそうだって? ハイ、ムチャクチャです(笑)。でも、「ムチャクチャ」には良いムチャクチャと悪いムチャクチャというのが(たぶん)あり、これはきっと良いほう。だって風がずいぶんと感じられますからね。
五〇〇メートルの木(というのが出てきます。ムチャクチャでしょ?)にあやかって、星は☆☆☆☆☆とさせていただきます。なお、最後に書くのもアレですが、この本、7月17日初版第1刷発行なので、「新刊チェックは出て2ヶ月以内」というルールに違反してます。でも、とってもいい本なので、大目に見てくださいね。
とてもおすすめ | ☆☆☆☆☆ |
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おすすめ | ☆☆☆☆ |
まあまあ | ☆☆☆ |
あまりおすすめできない | ☆☆ |
これは困った | ☆ |