ただいま創立 30周年を迎えてお祭り中の株式会社ハーレクインですが、近年は人気作の復刊にも精力的です。そしてこのたび、ロマンスの女王(こう呼ばれる作家は何人かいますが、リンダ・ハワードにその名を冠することを否定する人はいないでしょう)の代表作である〈マッケンジー家〉シリーズが8月から続けて刊行される運びとなりました。今回紹介するのは、その第1弾です。
ワイオミングの田舎町ルースにやってきたハイミスの冴えない高校教師メアリーは、成績トップにもかかわらず学校を辞めた生徒の家庭を訪ねることにした。学校に戻るよう説得するためだ。ところが、慣れない雪山に車の故障で立ち往生し危うく遭難しかける。それを助けたのが、問題の生徒ジョーの父親ウルフ・マッケンジーだった。大柄で黒髪を長く伸ばした鷹のような目を持つハンサムな男。もともと小柄で華奢なメアリーを軽々と抱え上げ、自宅へあげて、凍傷をおこしかけていた彼女の身体を優しく、力強くさすった。だが、お礼を述べ、ジョーの説得に協力を得ようとしたメアリーを、ウルフは拒絶する。メアリーを脅すために彼女の唇を奪い、僕たちは混血のインディアンで町から侮蔑され、拒絶されている。しかも僕はレイプの罪で刑務所に拘留されていたことがある。かかわらないほうがいい、と。
息子のジョーもはじめは父親と同じように町の人々の反応と自分の将来を諦観していたが、偏見のないメアリーの態度と熱心な勧めに心を打たれ、パイロットになりたいという密かな夢を明かした。メアリーはジョーのために個人授業をして、彼の空軍士官学校入学をめざすことに。そのことで町ではメアリーを批難する声が起こるが、メアリーは敢然と立ち向かう。その様子を物陰から見守っていたウルフは激しく心を動かされる。白人女を愛することなどないと思っていたのに……。
ウルフは、メアリーの分厚い眼鏡の下に隠されたブルーグレイの瞳や、ひっつめにされた薄茶の髪が絹糸のようであること、色の薄い肌のきめ細やかさ、そして子猫が虎として振る舞うような気の強さなど、すべてに惹かれ始めていた。一方メアリーも、ウルフの優しさ、たくましさに惹かれ、冴えない自分が彼の前では女としていられことに幸福感を憶えていた。そんな矢先、町でレイプ事件が起き、ウルフに嫌疑がかけられる。さらにメアリーにもレイプ犯の魔手が……。
本作は、1998年に邦訳刊行され、原書は89年に発表されているのですが、アメリカの田舎町が舞台ということもあって、古くさい感じはしません。アメリカ先住民族とスコットランド人の間に生まれたヒーローのウルフは、エキゾチックな風貌の、まさに現代に生きる戦士のような存在ですが、辺境の町では不当に蔑まれています。ヒロインであるメアリーの登場によって、彼が失われた誇りを回復していく様は見所です。
また、メアリーは29歳になるまで清く正しく、おまけに冴えない感じで生きてきましたが、ウルフによって女性としての喜びに目覚め、花開いていきます。ウルフとの関係を町人にほのめかされ、「そうですとも。私はもっと仲良くしたいんですけれど」と敢然と言い放つ彼女はとても格好いいです。
さて、本シリーズは、次巻『熱い闇』が発売中。パイロットとなる夢を果たしたジョーが主人公です。ジョーの弟にしてメアリーたちの息子が主人公の第3巻『愛は命がけ』は10月に発売予定です。彼らの妹が主役の短編もありますので、広がるマッケンジー家の世界をお楽しみください。☆☆☆☆
親子ハンサム度☆☆☆☆
シリーズで読みたい度☆☆☆☆☆
とてもおすすめ | ☆☆☆☆☆ |
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おすすめ | ☆☆☆☆ |
まあまあ | ☆☆☆ |
あまりおすすめできない | ☆☆ |
これは困った | ☆ |