最後は藤岡真『七つ星の首斬人』である。過去に作者が発表した、『ゲッベルスの贈り物』『六色金神殺人事件』などの変化球ぎみの諸作と比べると、ストライクゾーンを真っ当に狙ってきた直球の作品に見える。ただしそれは、平々凡々たる設定でつまらないという意味ではない。オーソドックスな犯人当ての小説として、評価できる作品である。
西大久保工科大学に在籍し宇宙物理学の権威と呼ばれる海渡欄太郎は、警察に協力して数々の難事件を解決に導いた「名探偵」でもある。海渡の同門の友人である大伴駿平は、彼の活躍をフィクション化したミステリー作品を発表し、好評を博している(ただし、海渡もの以外の作品はさっぱり売れなくて腐ってもいるのだが)。ある日、海渡の研究室を訪ねる者があった。警視庁捜査第一課の魚柄警視正だ。首が切断され、身元がまったく判らない遺体が発見された件について相談しに来たのである。最初のうち、海渡は事件捜査に乗り気ではなかったのだが、警視庁に届けられた手紙が状況を変えた。「七つ星の首斬人」を名乗る者が、犯行声明と次回の殺人予告を謎めいた文章で示してきたのだ。その手紙の通り、第二の犯行も起きた。両方の事件とも被害者は、立っている状態で首を刎ねられているという。もし剣士の仕業だとしたら、犯人は恐るべき手錬であるはずだ。
行動を起こし始めた海渡にとっては身近な場所で第三の事件が起きる。NITの精神物理学科に奉職する伊佐凪久作准教授が、海渡に相談を持ちかけたことが発端だ。伊佐凪によれば、七つ星の首斬人とは七角形が産んだ超エネルギーのことなのではないかという(この辺の、突拍子もない感じは『六色金神』に似ていますね)。その言葉を裏付けるかのように、密閉された七角堂の中で第三の被害者が首を刎ねられる事件が起きるのである。
密室トリックまで盛り込むサービス精神は感嘆に値するが、本書の価値はやはり犯人当ての興味一点にある。犯人を示す大胆な伏線など、真相が判ってから読むと感心させられる箇所が多々あるのだ。弱点は、登場人物が多い割に容疑者の振り分けが巧くいっていないことだろう。読みながら、過去の因縁が現在の事件に結びついていることは十分に察せられるのだが、過去と現在を結びつけるパイプとなるべき人物が少ないのだ。消去法で容疑者を除外しようとしても、それぞれの人物の背景が十分にわからないため、判断ができない。真相を明かされたのちには「たしかに伏線はあった」と納得できるのだが、読書中に推理の拠り所とすべき「手がかり」が不足していると私は感じました。その点は残念なのだが、すいすい読めるおもしろさは評価したい。☆☆☆を進呈します。
とてもおすすめ | ☆☆☆☆☆ |
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おすすめ | ☆☆☆☆ |
まあまあ | ☆☆☆ |
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これは困った | ☆ |