1809年、数々の浮名を流したリディア公爵の突然の死にロンドン社交界は騒然となった。彼が亡くなったのが、ロンドンに来たばかりの、とても若い親子ほど年の違う娘、侯爵令嬢レディ・キルビーの部屋だったからだ。公然とではないものの、公爵は魔性の女の柔らかい腿の間で腹上死したのだと噂されていた。
公爵の長男で、父親の死によって爵位を継ぐことになったフェインは、ハンサムな独身貴族で構成された「高貴な野蛮人」と呼ばれるグループで、女遊び、賭博、そして決闘と、父親に負けない放蕩のかぎりを尽くしていた。そして父親の最後の愛人に興味を持ち、誘惑のゲームを仕掛ける。
だが、実際のキルビーは、まっすぐな黒髪にスミレ色の瞳の、魔性という言葉とは似ても似つかぬ、純真無垢な娘だった。その見た目に父親は騙されたのだ、とフェインは思うが、キルビーと亡くなった公爵のあいだには、真実なにもなかった。キルビーにはある事情があったのだ。
両親である侯爵夫妻が不慮の事故で亡くなり、兄が侯爵を継いでから、キルビーの家はおかしくなりはじめた。兄はきちんと財産の管理をしようとせず、キルビーたち妹に辛く当たり、あまつさえ、キルビーと肉体関係を持とうとしていたのだ。抵抗するキルビーに、兄は、キルビーが、父侯爵の後妻である亡くなった母親が、結婚前に宿した、自分とは血の繋がらない娘なのだと告げる。自分と関係を持つか、お金のありそうな家に嫁げ、そして拒むならば、妹を虐待すると。だから、キルビーは結婚相手を見つけ、さらに本当の両親を探すために、領地からロンドンに出てきたのだ。亡くなった公爵には、両親のことを聞く手筈になっていた。
世間知らずのキルビーは、都会の男たちの手練手管に気づかず、うっかり両親のことを教えてくれるという男についていき、ついには無理やり手籠めにされそうに! その窮地を救ったのは、フェインだった。勢いでフェインはキルビーを抱くが、フェインの誤解と異なり、キルビーが処女であったことが判明。こじれるふたりの関係に、さらにキルビーの兄が口を出してきて……
シナモン色の髪に緑の瞳、絵に書いたような傲慢貴族でプレイボーイのフェインが、無垢な娘キルビーに翻弄される様を見ると、本当な悪女ってなんだろうと、月夜に問いたくなります。まあ、キルビーはキルビーで、家庭の事情を背負いつつ、好きな男からは娼婦のように思われて深く傷ついたりして大変なんですけどね。前半、自分のことでいっぱいいっぱいだったふたりが、今度は相手のことで心を悩ますように成長するところなどは、読ませどころ。
読ませどころといえば、本作はロマンティックタイムズ誌という、ロマンス小説の情報誌で、ベスト官能ヒストリカル賞に輝いており、官能ポイントもヒストリカル・ポイントもツボを押さえています。エロスのほうは、すぐに行為に及ぶよりも、やはり誘惑ゲームで、キルビーの胸のスカーフを、決闘前にフェインが引き抜いたりするシーンなんか、繊細な描写でドキドキです。ヒストリカルのほうは、人気のリージェンシー(摂政時代)で、とくにフェインの決闘シーンなどは熱く盛り上がるところ。
著者の先行の邦訳作品では『汚された令嬢』があり、フェインの妹フェイアーが主人公。本作のほうでも、フェイアーとその夫が、フェインとキルビーのために力を貸します。☆☆☆★
エロティック度☆☆☆☆
誘惑ゲーム度☆☆☆☆☆
とてもおすすめ | ☆☆☆☆☆ |
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おすすめ | ☆☆☆☆ |
まあまあ | ☆☆☆ |
あまりおすすめできない | ☆☆ |
これは困った | ☆ |