最初に紹介する『アダマースの饗宴』は第16回松本清張賞受賞作である。元の題名は『六本木心中』であったが、確かに改題後の今の方がカッコいい。
殺人を犯し服役刑に処された過去のある元風俗嬢・笙子は、出所後は概ね静かに暮らしていたが、かつての恋人・加治が起こした事件との関連を疑われ、さまざまな組織に狙われることに……。
選考委員の大沢在昌が絶賛したという作品だが、確かに大沢作品との相似性が見られる作品である。主人公の笙子は、上述のとおり前科持ちであるうえに、加治からは「自分にツキをもたらしてくれる女」と縁起を担がれている。どうやら笙子が殺した相手というのが、当時の加治の商売敵で、そいつが倒れてくれてから彼の商売がうまく回り始めたようなのである。さらに、加治が今起こした事件というのが、繁華街での銃器を使ったドンパチというちょっと流行らないものだ。こういうケレンに満ちた設定は、いかにも大沢在昌らしいではないか。
魅力的なのはやはり主人公の笙子の人物造形である。相手がろくでなしだったこともあって、殺人を特段気に病んではいない一方、やはりその経験自体には重みがあり、とても孤高な性格や立場を彼女に与えているのである。周囲の人物にも癖の強いのが揃っていて、頭で金を稼ぐインテリ趣味のヤクザや、ハッカーの美女、加治に手を貸す女、破滅願望を宿すヤクザの親分、もちろんこれに加治も加わり、各人の思惑が錯綜、物語はかなりドラマティックなものとなる。裏社会の黒さもまざまざと見せ付けられます。
ただし瑕も多い。笙子は事件の調査においてほとんど役に立っていないし(ストーリー進行の上では、ハッカー技術を持っていたり、ヤクザと太いパイプを持っている仲間たちの方が遥かに重要。極端に言えば、笙子は横で突っ立っているだけだ)、加治の計画はあまりに無謀で後先考えていないにも程がある。企業がらみの犯罪なのに、商業法規的な面で明らかな誤謬も見られる。一例を挙げるが、作者は「株式交換」の意味を取り違えているのではなかろうか?
とはいえ、元々ケレン味のある登場人物や題材を配しているので、これらの欠点は実はそれほど気にならない。また人間を魅力的に描けていることからして、牧村一人に筆力があることも間違いないところだ。次回作品への期待も込めて、総合的にはちょっと甘めに☆☆☆。
とてもおすすめ | ☆☆☆☆☆ |
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おすすめ | ☆☆☆☆ |
まあまあ | ☆☆☆ |
あまりおすすめできない | ☆☆ |
これは困った | ☆ |