1880年ロンドン。伯爵令嬢ローレンは、野蛮人の地、アメリカ・テキサスから、爵位を継承した元カウボーイのサクシー伯爵が英国に帰還したとの噂を耳にする。噂を携えてローレンを訪ねてきた令嬢たちは、10年前まで、テキサスで暮らしていたローレンなら、話題の伯爵のことを知っているのではないかというのだ。
優しく奔放なカウボーイなら知っているが、伯爵など知らない。そう否定した彼女の前に現れたサクシー伯爵は、黒髪のたくましい美青年に成長した、「優しく奔放な」、彼女の初恋の少年トムだった。母親であるサクシー伯爵夫人に、アメリカに置き去りにされたトムは、養父母の元でなにも知らずに過ごし、英国のほうでもトムは死んだものと思われていた。だが、前サクシー伯爵であるトムの父親が死に、その跡を一時的に継いだ遠い親戚によって継嗣であるトムが発見されたのだという。
トムはローレンに幼い日の貸しを返してもらいにきたと告げる。その貸しとは、25セント玉と引き換えに、ローレンが服の胸のボタンをはずしてみせることだった。10年前はローレンの母親、エリザベスの乱入により阻止されてしまったが、そのときローレンは25セントを受け取っていた。
二人は密かに将来を誓いあっていたものの、エリザベスが夫の双子の兄だったレイヴンリー伯爵と再婚し、ローレンを連れて英国に渡ったせいで、ローレンとトムはずっと没交渉だった。送りあうと約束した手紙も、エリザベスによって焼かれていた。トムに忘れられたと思い、慣れない貴族社会で苦労を重ねたローレンは、いつしかテキサスに帰ることを夢見、着々と準備を進めていた。それなのに、こんな形で再会するなんて。
金髪碧眼の大胆不敵な美少女だったローレンを思い続けてきたトムは、なんとか彼女を引きとめようと、テキサス行きのチケットを進呈することを条件に、ローレンに貴族社会の決まりごとを教えてほしいと提案する。すっかり大人の男になったトムに戸惑いながらも、チケットを言い訳にローレンはトムの教育係を引き受けた。「結婚見本市」と言われる、貴族たちが花嫁花婿を物色する社交シーズンが始まるまでのわずかなあいだ。それが終われば、領地に縛られるトムは英国に残り、ローレンはテキサスに旅立つ。貸しは清算されるのか。切ない二人の関係に未来はあるのか?
「初恋」「二人の秘密」「別れ」「再会」「ワイルドな魅力の伯爵」「自由を求める美しい令嬢」「タイムリミット」……キーワードだけ集めてみても、まさに盤石の構え。しかもツボを外さないページターニングな展開は、さすがRITA賞ヒストリカル部門受賞作というべき、鉄板のヒストリカル・ロマンスです。
ローレンは外見こそ完璧な伯爵令嬢ですが、内心は自由な魂を宿したテキサス娘。彼女は自分の教育によって、トムのカウボーイらしさが失われてしまうことを危惧し、さりとてトムに恥をかかせるわけにもいかず、その板挟みに心を痛めます。トムのほうでも、ローレンを花嫁として迎えたいと切望する半面、自分の存在が彼女に恥をかかせ、さらに彼女の自由を阻害するのではないかと思い、なかなか最後の一歩を踏み出せません。そんな初恋の相手にまた恋をして、互いを想い合うゆえに近づけず、離れられもしない。とってもとってもスウィートな内容です。
テキサスの星空の下で二人で願いをかけた流れ星が、英国では、こうきたか、という大変決定的なシーンで流れて、本当にこっぱずかしいほどロマンティック。いやもう、欠点といったら、あまりにもロマンスのお約束を完璧に満たしすぎではないかということくらいです。
作者のロレイン・ヒースは、これまでもヒストリカル・ロマンスでRITA賞の短編賞に輝いたり、その他の賞も受賞している実力派。邦訳では、本作の前日譚にあたる『気高きレディの初恋』が出ています。トムも登場しますよ。要チェックです。☆☆☆☆
スウィートなお約束度☆☆☆☆☆
ボタンセクシー度☆☆☆
とてもおすすめ | ☆☆☆☆☆ |
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おすすめ | ☆☆☆☆ |
まあまあ | ☆☆☆ |
あまりおすすめできない | ☆☆ |
これは困った | ☆ |