戦国時代は、戦場で取った敵の首の数で報奨が決まったことはよく知られている。だが首そのものを題材にした作品は少なく、すぐに思い付くのは谷崎潤一郎『武州公秘話』(中公文庫)くらいである。その中にあって本書は、関東の名門・北条家に仕える下級武士を主人公にして、首をめぐる悲喜劇を連作形式で描いている。
サラリーマン化した江戸時代の武士と異なり、戦国の武士は、実力さえあれば出世も夢ではなかった。無能な主君を討ち取って戦国大名となった斎藤道三や北条早雲、主君を変えるたびに出世した藤堂景虎などは、結果がすべてだった戦国時代を象徴する武将といえるだろう。だが華々しい活躍で歴史に名を残した戦国武将は一握りに過ぎず、ほとんどの武士は組織の歯車として働いていた。ただ江戸時代の武士が基本的に終身雇用であったのに対し、戦国時代は完全成果主義なので、厳しいノルマをクリアしなければリストラされることもあれば、出世競争に遅れる危険もあった。いってみれば戦場であげる敵の首は、人事査定を左右する重要なアイテムだったのである。
成果を公平に判断するため、戦場では、首の貸し借りや売買は禁止されていたようだ。だが多少ルールを破ってでもボーナスを得たい、出世をしたいという欲望は変わらなかったようで、作中には小ずるく立ち回ってでも首を手に入れようとする男たちが数多く登場する。当然ながらコンプライアンス違反なのでバレたら破滅するのだが、それでも首を手に入れるために一か八かの賭けに出る下級武士のツラさは、宮仕えの経験があれば身につまされるのではないだろうか。
短篇集なので、収録作の質にバラツキがあるのはある程度許容できるが、同じようなオチが連続するのは残念。全体には☆☆☆だが、コンゲームものとして秀逸な「頼まれ首」と「雑兵首」の二篇は☆☆☆☆。
とてもおすすめ | ☆☆☆☆☆ |
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おすすめ | ☆☆☆☆ |
まあまあ | ☆☆☆ |
あまりおすすめできない | ☆☆ |
これは困った | ☆ |