著者は、主にDVやジェンダーの問題、家族崩壊の病巣などを取材してきたジャーナリストだ。北九州・小倉で2002年に発覚した凶悪事件のルポも手がけている。凄惨な事件から目を背けず、その向こうにある人間の弱さまでを書ききった『消された一家―北九州・連続監禁殺人事件』(新潮文庫)の筆致は神懸かり的でさえあった。
その著者が今回テーマに選んだのは、故・飯島愛。クリスマス・イヴの孤独死という、ドラマティックに過ぎるそのニュースは、それまで飯島愛に関心のなかった人までもが思わず注目してしまうほどだった。本書は、そんな急逝した有名タレントの知られざる素顔を掘り起こした評伝である。
芸能界においてあまり他者と関わりを持とうとしなかった飯島と例外的に親しかったというモト冬樹、飯島を一躍有名にしたAV女優時代の所属プロダクション社長、かつて共演したこともあるベテランAV男優でマンガ家の平口広美、飯島がホステス役の対談連載担当者など、飯島の確かな一面を知る関係者からたくさんの言葉を引き出し、実家のある亀戸周辺での評判や、クラブホステス時代の取材もしている。幼少期から死の直前までの軌跡がていねいに描かれていく。
白眉は、そのホステス時代に知り合い、無二の親友だった3つ年上の静香のインタビューだ。かつてナンバー1ホステスで、飯島にとっては憧れの存在だったという静香は、飯島の満たされなさや寂しさをもっとも間近で見てきた女性である。
彼女との交流が、どれほど飯島の支えになっていたかがわかるエピソードがいくつも盛り込まれていて、そのどれにも共感してしまうし、密な友情がうらやましい。やがてふたりは、対照的な生き方を選んだことでやや距離を置くことになるのだが、結局は疎遠になりきれないところにも絆の深さを感じるのだ。
それにしても本書の端々からは、人気AV女優を経て、毒舌を芸風にした売れっ子バラエティータレントに転身した華やかな顔とは裏腹の、不器用さばかりが垣間見える。
10代の飯島は、貢ぐことでしか愛してもらえないと思い込んでいた。本気で好きになった恋人とはお互いが未熟すぎて別れた。一途に愛した最後の不倫相手は、あきらめるしかなかった。そのどこかで確かな愛を得ていたならば、きっと飯島の中で何かが変わったのに、と思えてならない。
読後感はいいとは言えない。しかし、36年の生を精一杯生きた飯島に、「がんばったんだね」と声をかけてあげたい気もするのだ。著者の言葉を借りるならば、<弱さを抱えている女性が怖じ気づきながら、何度でも新しい世界に飛び込んでいき、七転八倒しながら人間的に成長していく道程>がここに記されているからだ。
そんな孤独を飼ったひとりの女性に優しい眼差しを向け、飯島の人生を追い続けた著者の誠実さが光る。
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