最後、もう一冊新人の作品を紹介する。伊吹有喜『風待ちのひと』だ。二〇〇八年に第三回ポプラ社小説大賞特別賞を受賞した『夏の終りのトラヴィアータ』を改稿・改題した作品で、大人の恋愛小説である。実はこの作品、刊行前に読ませてもらっていて、私も帯に推薦文を寄稿している(書店で見てくださいな)。本来なら自分が関与した作品については一切書評をやらないことにしているのだが、今回は特例だ。伊吹有喜という新人を、ぜひとも皆様にお薦めしたいもので。
一人で暮らしていた母親が死に、家と遺品の整理のために須賀哲司は海沿いの町にやってくる。能力のみを問われる社会で、冷え冷えとした心の人々と競り合いながら生きてきたため、哲司は心の風邪とでもいいたくなるような状態に陥っている。その彼が、何もかも自分とは正反対の女性・福井喜美子と出会うのだ。彼女は、なりゆきから哲司の母親の家の片付けを請け負った。ペコちゃんと呼ばれるような愛嬌のある顔立ちの喜美子だったが、彼女にも引きずっている過去があった。懸命に見せないようにしてはいるものの、心の風邪を引いた、哲司とは同病相哀れむ間柄だったのだ。二人が寄り添いながら、少しずつ魂の再生を果たしていくという物語なのである。
なによりも魅力的なのは、ペコちゃんの人柄だ。世話焼きな性格を最初は煩がっていた哲司も、次第に彼女に引かれていく。それもむべなるかな。優しい微笑みの裏側に強い心を宿した、実に魅力的な女性なのである。彼女を造形しただけで、作者には受賞の資格があったな。あと脇役では、ガンダムプラモマニアの舜という青年がいい味を出している。ファーストガンダム世代の人は、ぐっとくるはずだ。
評価は期待をこめて☆☆☆☆。次回作を早く書いてください。
とてもおすすめ | ☆☆☆☆☆ |
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おすすめ | ☆☆☆☆ |
まあまあ | ☆☆☆ |
あまりおすすめできない | ☆☆ |
これは困った | ☆ |