やはり経済ネタがからむ原宏一『東京箱庭鉄道』(祥伝社)は、広告代理店を辞めてフリーター生活を送っていた主人公が、突然、旧宮家の大富豪から、四〇〇億円出資するので三年以内に東京に鉄道を作って欲しいと依頼されるファンタジックな物語。鉄道ファンはもちろん、『プロジェクトX』に感動した方や青春小説が好きでも満足できるだろう。
著者がコピーライター出身ということもあるのだろうが、東京のどこに鉄道を敷けば利便性が高く持続的な維持運営ができるかをあれこれ議論し、プレゼンテーション案を作るまではとにかく面白い。だがクライライアントから企画案にゴーサインが出され、実際に許認可、施工へと移る中盤になると、途端に失速する。鉄道建設に関してはまったくの素人だが、常識的に考えれば、国交省や都庁、区役所などと折衝して許認可を得るまでには膨大な時間がかかるだろうし、土地買収や建設会社の選定が面倒なことも容易に想像できる。ところが本書は、旧宮家のクライアントが万能で、お役所や堤義明をモデルにしたとおぼしき鉄道会社の重鎮と交渉し、あっさり工事着工にまでこぎ着けてしまう。本書のような『プロジェクトX』系の作品の場合、主人公が困難を乗り越え成功するからこそカタルシスが生まれる。だが“困難を乗り越える”部分が、おもいっきり省略されているので、盛り上がりに欠けてしまったことは、否定できない。
無為な生活を送っていた若者たちが、とてつもないプロジェクトを進めることで輝いていくという展開は、不況で夢を失っている日本人に勇気と希望を与えることは認める。ただ主人公は会社を辞めてフリーターになったとはいえ、都心の一等地に建つアパートを相続しており、実は悠々自適の生活を送れる身分。派遣切りどころか正社員の首も危ない時代に、絶対安全な場所にいながら夢を追いかける主人公が共感を得られるとも思えないのだ。またラストには、なぜクライアントが四〇〇億という資金を投じて三年以内に鉄道建設をしなければならなかったのかという謎が解明されるのだが、その動機が日本推理作家協会賞を受賞した某誘拐ミステリーを彷彿とさせるので、かなり早い段階で読めてしまった。作品の完成度では☆☆だが、前半の圧倒的なスピード感と全体を流れる爽やかさは決して嫌いではないので総合は☆☆☆。
とてもおすすめ | ☆☆☆☆☆ |
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おすすめ | ☆☆☆☆ |
まあまあ | ☆☆☆ |
あまりおすすめできない | ☆☆ |
これは困った | ☆ |