沢村凛の短篇集『脇役スタンド・バイ・ミー』の読みどころは、ごわごわとした手触りの悪さにある。なめらかな小説ばかり読んでいると、たまにこういうものが欲しくなる。ところどころの描写に気持ちを逆撫でする部分があり、そこが読んでいて楽しいのだ。例を挙げると第一話「鳥類憧憬」ね。失業中で「このままでは、親の年金で生活する人間になってしまう」というパラサイト化への不安を抱いている女性が主人公なのだが、日課である散歩をしている間に、彼女は公園でハトに餌をやっている老婆を目撃する。そばに「ハトにエサを与えないでください」と書かれた看板があるのに。主人公が「この、ハトばばあ」と逆上するのだ。「ばばあ」はねえだろ、ばばあは、と思うのだが、この苛つく感じがいいわけです。または第四話「裏土間」。人におせっかいをしてしまう男が主人公だ。彼は近所の家がユリの花を飾ろうとしているのを見て、思わずドアをノックしてしまう。まったく面識のない家なのに! 見ず知らずの男がやってきて、花についてアドバイスをしようとしたら警戒されますわな。その結果、彼は近所で危険人物視されるようになってしまうのである(当たり前だ)。こういうのがごわごわした感じ。登場人物への共感を拒むものがあるのですね。
弱点は作者がいい話に回収しようとしているところか。行動原理に一貫性がなかったり、どう考えても偏屈な人間だったりするので、何かをしようとする登場人物にいちいち疑問を感じてしまうのだ。たとえば第六話「前世の因縁」では真相を明かされると、そんな迂遠なことをする人間がいるものか、と引っかってしまう。逆に優柔不断な女性が先輩から、麻雀のときは迷ったらツモ切りだ、と教えられ、それ以来人生の指針にするようになったという第二話「迷ったときは」は、話として破綻はしていないのだが、伏線回収の強引さゆえ、落ちを聞かされると「誰がうまいことを言えと」という気分にさせられるのだ。嫌な人間のいやーな話、で終わってくれたほうが小説としての風格は上だったはずである。書き下ろしで付加された最終話の趣向にも私は乗れませんでした。第五話「人事マン」だけなら☆☆☆☆。全体としては☆☆。
とてもおすすめ | ☆☆☆☆☆ |
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おすすめ | ☆☆☆☆ |
まあまあ | ☆☆☆ |
あまりおすすめできない | ☆☆ |
これは困った | ☆ |