夏である。恋の季節である。ということで今回は恋に役立つロマンス小説! しかもいきなり男子編である。ロマンス小説は女子のものと思っている男性に、読めば即恋愛力アップする作品をご紹介、一気に読者層拡大も狙う魂胆である。
まずは『夜の彼方につづく道』。
ある夜、ブルースはヒッチハイク中の女性シンシアと出会う。彼女の行く先は偶然にも彼の住む町だった。シンシアは元娼婦。夢にたびたび出てくる町に運命を感じ、そこで新たな生活を始めようと決意してやってきたのだ。美しいシンシアに惹かれたブルースはシンシアの仕事を探し、住む場所を見つける手助けをする。過去を知っても態度を変えない彼にシンシアも少しずつ心を開いていくが、穏やかな日々も長くは続かない。彼女がひた隠す過去の秘密を知る人物が、町に忍び寄っていた。
実はこのブルース、牧師さんである。シンシアは「世界が違い過ぎる」と身をひこうとするが、ブルースは気にしない。しかしフェロモン全開で迫ることもしない。男性全般に不信感を抱いているシンシアのことを考え、まずは心の距離を狭めることに専念。好意を持っていることを伝えつつも「きみの準備ができるまで」抱かないと宣言し、主導権を彼女に譲る。しかし彼女の準備が整ってからは一転「きみは何もしなくていい」と主導権を奪取。自分の快楽より男性の快楽を叶えること優先で生きてきた彼女に真の快楽を味わってほしいと頑張るのだ。このあたりの力加減は絶妙。まずは相手を待って信頼感を得る。交流フェーズに入ったら積極的に押す。相手が元娼婦じゃなくてもこのテクニックは使える。というか、人間関係全般に使えそうだ。さすが、牧師さん!
じゃあ、女子は常に相手に主導権をコントロールして欲しいのかと言えばそうとも限らない。『おさえきれない想い』のジリアンのように、自分で主導権を握りたい女子もいるから要注意である。 女優のジリアンは自宅を下宿にして仲間と暮らしている。トラブルを防ぐために「下宿内では恋愛禁止」を言い渡し、自らには男性関係に苦労した母を反面教師に「恋愛禁止」を課している。しかし新しい下宿人としてやってきた記者のアランと恋に落ち、二つのルールと高まる欲望の間で揺れ動く。しかもアランには下宿人になるにあたり、隠された目的があったことも明らかになる。
ジリアンは女性主導で性的快感を追求することを推奨するタイプ。表面上、アランにリードさせることもあるがそれも自分の快感のため。彼を快楽に導くのも自分の快楽のため。結構勝手であるが、当人たちは最終的に満たされているようなので問題ないのだろう。
しかし彼女は、快楽を求めても心は許さないと決めている。だからアランに対して夢中になっている自分に気が付くと、そのルールを破ることを恐れて主導権を死守しようとする。そしてベッドの上でアランにある制約を課すのだ。しかしそんなものに負けるアランではない。推察するに男性には結構なハンデだと思うのだが、勢いを殺がれることなく彼女も自分も満足する結果を導き出す。
まず一歩引いて彼女の支配欲を満たす。その上で自分の仕事もきっちり果たす。親分風を吹かせたがる上司との仕事にも生かせそうだ。主導権を奪われているわけでも取れないわけでもなく、あえて取らない。そして攻めるときには攻める。
ここまでそつなくエネルギッシュにこなされると多少疲れてくるが、げんなりしてはいけない。この二人に倣えば押し・引き・待ち・攻めは完璧である。前回紹介したヒストリカルの場合、男性が騎士だったり侯爵だったりするので言動をそのまま真似ると相手がひく可能性が高いが、今回みたいなコンテンポラリー(現代物)ならその点も大丈夫。
あとは相手がシンシアなのかジリアンなのかを見極めて技を組み合わせるだけ。恋の勝者になれることまちがいなしだが、その見極めこそが一番大切なのは言うまでもない。