近ごろのメディアには、美しく年齢を重ねるための保守的な提言があふれているが、この本は、こうした王道的なアンチエイジングブームに反旗を翻す。つまり、アンチエイジングのアンチテーゼ。たとえば「四十路と美容」の項にはこうある。
「美容に対しては、少し冷静になった方がいいのです。(中略)ただの自己満足であり、血道を上げて美容に精を出しても、肌の老化は完全に止められるわけもない。美容に没頭する時間があるなら、本を読んだ方がいいし、私なら海に行って泳ぐ人生を選びます」
著者は40を過ぎた女たちに、美容の手を抜き、ガンガン日焼けしろと言っているのだ。胸のすくような過激なアドバイスだと思う。
「本書は、つい最近駆け抜けてきた40代の10年の中で、私自身の経験上で考えた、アラフォー女性が今後を生き抜いて行くための知見の集大成でもあり、種明かしでもある」と著者。アラフォー女性の大きな関心ジャンル(恋愛、セックス、健康、美容、ファッション、仕事)に潜む「ブレーキ」を指摘し、それを取っ払っていく本なのだと。
ブレーキとは、もう若くない女のチャレンジを失速させる「愛に満ちた」忠告のことで、女友達や母親や身近な男性によってもたらされる。いくつになっても力強く外に出ていきたい元気な女にとっては、相当厄介な問題であることは間違いない。
巻末には、今チェックすべきカルチャー(本、映画、音楽、海外都市、健康&美容アイテム、レストラン&遊び場、ファッション)の各ベスト8までついており、魅力的な個性の輪郭を持ったオモロイ女として生きろと、読者に発破をかける。
15歳のとき「結婚して家庭に入り、そこに落ちつく」という当時の主流だった生き方に違和感をおぼえ「小出しにして、一生遊び続けていようね」と女友達と誓い合った著者は、35年後の今「小出しどころか、大出し&丸出しに遊んで」いるのだという。そのエネルギーと行動力は半端じゃない。
おそらく15歳のときにぼーっとしていたような女は、いくつになってもぼーっとしているんじゃないだろうか。ほとんどの女は、因習に反旗を翻すようなバイタリティーと勇気を持ち合わせていないんじゃないだろうか。著者もその辺には理解があり、他力本願な女やカマトトな女や体力のない女への配慮を忘れない。本の中で感じた違和感の理由を徹底的に考え、自分だけの考えやスタイルを見つけてねとやさしく囁くのである。このサービス精神こそが本書の特徴で、タイトルこそ『四十路(ヨソジ)越え!』だが、著者自身の過去も含め、多数のサンプルが登場する。この本をアラフォー世代だけに独占させるのはもったいない。
最も力が入っているのは「四十路と恋愛」の項で、女が陥りがちな恋愛依存のワナにメスを入れる。恋愛に求める要素をデート、友情、セックスなどに因数分解し、オーダーメイドのように自在な関係性をつくれと説くのだ。デートがしたい人は恋愛や肉体関係抜きのデートを楽しめばいいし、セックスを望むのであれば恋愛抜きの肉体関係やマスタ―べーションもありだろうと。すべてに恋愛を絡ませる必要はない。効率的な考え方だと思う。
女性誌などで見かける「いくつになっても恋する気持ちを忘れない」という文言ほどキレイごとで実体の無い言葉はないと著者は喝破するが、本当にそう。毎日にうるおいがない、張りがない、希望がないと思うたびに「恋愛」を発動するのは「近くのファミレスに行くのに、ハイヤーと運転手を雇って出かけるようなもの」。恋愛という曖昧な概念に漠然と依存するのはやめ、自分の欲求をきっちり因数分解し、オプションとして単品装着すれば、ビタミン剤のようにそれが効くというわけである。大人っぽいなあ。
サービス精神あふれる著者は、それでも恋愛したい女に向けた実践編も用意している。とりわけモテる女のサンプル紹介は興味深く「ずば抜けてモテている女性は、いわゆるモテ術から考えると見事に規格外だった」という。はたして当の超モテ女は、一体どのようなキャラクターだったのか。具体的な描写は本文のお楽しみとして、そこから導き出したモテ術のノウハウは「少なくとも、モテのためにメイクやファッションに投資するよりも効果は高そう」なのである。
「清純で真面目な24歳の処女」からの相談を受け、著者ともうひとりのモテ強者が「彼女が好意を寄せている男性をその気にさせるプロジェクト」を発足させ、成功に導いた顛末も面白い。「モテ強者が数々の経験からはじき出した最高戦略」とは「胸と足、そこだけ目が行くようにすればいい」というもので、そのほかのディテールは「どうせ男は凝っても分からないから無駄」だって! ちなみに強者たちの男性の誘い方の定番は、キスをトリガーにすることであるらしい。なんて勉強になるんでしょう。
健康や美容の項でも、「無理をする」健康法や、五千円のバッグをサンローランに見せてしまう髪型のひみつ、大汗かいても滲まない究極のアイライナーなどが熱く語られ、オールナイトでクラブに出掛けても疲れ知らずの栄養剤や、徹夜続きの死に体を中学生の身体に戻してくれた奇跡の処方体験が披露される。スポンサー依存のメディアにはマネできないタブー発言が満載だ。
大切なのは、何事にもしばられない自由。不自由さから1歩でも解き放たれる可能性のある考え方のヒントを、著者は惜しみなく提示する。人は歳をとるほど自由になれるのだから、多数派の道を歩む必要はないのだと、読むだけで希望がわいてくる。