ここで少し、作者のR.D.ウィングフィールドについてのご紹介。彼は1928年ロンドン生まれで、石油会社に勤めるサラリーマンの傍ら、ラジオの脚本やドラマの台本を書いていたという異色の経歴の持ち主。その後、1970年に脚本家として執筆に専念することになる。はじめての小説『クリスマスのフロスト』は1972年に執筆されたらしい。そういえば、「フロスト」シリーズはメリハリの効いたキャラクターづくりやスピーディーなストーリー展開など、脚本家としての経験が十分生かされていることに気が付く。しかし、この作品はいろんな事情があって、世に出るのは50代も半ばを過ぎてからの1984年という、小説家としては遅咲きのデビューだった。
余談だが「フロスト」シリーズはイギリスでテレビドラマにもなっており、以前CS放送のミステリーチャンネルで何本か見たことがある。原作よりはよっぽど上品なフロスト警部という印象だった。テレビ番組としても人気があったようで30本以上の作品があり、『クリスマスのフロスト』『フロスト日和』といった、原作と同じタイトル名の作品もある。またDVDも販売されている。
2009年4月現在、創元推理文庫から出版されている「フロスト」シリーズはすでに触れたとおりの4作品。この原稿を書くにあたり処女作『クリスマスのフロスト』を実に14年ぶりに読み返してみた。奥付は、初版1994年9月30日発行、1995年2月24日第9版となっている。先日、同書の奥付を書店で確認したところ、なんと39版と版を重ねていることが判明。ちなみにシリーズ2作目の『フロスト日和』は1997年10月17日初版であり、現在16版目、3作目の『夜のフロスト』は2001年6月15日初版、現在7版目となっている。
版を重ねるということについては、おそらく創元推理文庫の中でもトップクラスであり、ロングセラーであることは誰もが認めるところだろう。
作品の出来不出来が話題になるシリーズも多い中、フロストは4作品とも甲乙つけがたい佳作ばかりであるということも、魅力のひとつ。だから、第1作を楽しく読み終えた方は、だんだんエスカレートしていくフロストのえげつなさに辟易しつつ、2作目以降もきっと楽しく読み進めることができるはずだ。翻訳されているフロストシリーズには『夜明けのフロスト』(光文社文庫)という作品もある。わずか100ページほどの中編で、多少乱暴な点も感じられないではないが、長編を凝縮したような内容でそれなりに印象深い作品だった。また『ファックスで失礼』という短編(ミステリマガジン1998/6/No.507)も残されている。長編を読み終えてからぜひどうぞ。
こんなに魅力的なキャラクターを生み出した、R.D.ウィングフィールドだが、残念なことに2007年、癌でこの世を去っている。残されているのは、長編の『Winter Frost』『Killing Frost』だけ。残り2作の翻訳が待ちこがれる。